私の前回の記事「日本人の『賃上げ』という考え方自体が大間違いだ」は、珍しく多くの賛同を得たのだが、今回は、せっかく賛同していただいた読者全員を敵に回すような話をしよう。実は、結論から言うと「経済全体のためには、賃金が上がる必要はまったくない」のだ。
理論的に経済の拡大に賃金水準は、直接関係ない。これは、どんな経済学の教科書にも書いてある基本的な事項を組み合わせるだけで理解できる。整理してみよう。
労働市場において必要な「3つのこと」とは?
経済発展のために労働市場において必要なことは何か。以下の3つである。
(1)最適な労働力の資源配分。つまり、適材適所である。個々の働き手が最適な職につくことが必要である。ここから始まる。
(2)最適な職についた働き手による最適な努力。これを実現する最適なインセンティブの付与。このインセンティブは以下の2種類に分けられる。働き手の努力の量(水準)と方向(あるいは質)である。量のインセンティブ(2a)と方向のインセンティブ(2b)である。
(3)そして人的資本の蓄積だ。個々の働き手は、インセンティブに応じて働きながら、自身の人的資本を蓄積していく。OJT(on the job training)であるが、それが彼の将来の労働生産性を上昇させ、その合計が経済全体の生産性の上昇、経済成長をもたらす。
この3つの実現のために、賃金上昇が必要なときもあるが、賃金上昇がむしろ逆効果になることもある。むしろ全体のシステムデザインの成否が最重要であり、賃金はその手段にすぎず、高ければよいというものでもないし、上がり続ければよいというものでもない。
さらに問題を難しくするのは、現実には、多くの働き手は組織の中で活動することである。組織が関与することによって生じる困難は3つある。
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