耳鼻科専門医が教える「なぜ鼻の穴は2つあるか」 加温と加湿、除湿機能を兼ね備えたすごい器官

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1つには血液です。鼻の中や顔面、頭皮を走行する血管は外気に触れて血液の温度を下げ、その血液が脳内を還流することで冷やす仕組みを持っています。また、鼻の中は、その上方にすぐ脳があります。この距離の近さはダイレクトに脳からの熱を放散させ、直接冷やしているのではないかと考えられています。

脳は体温とは別に血液によって脳を冷やす水冷のようなシステムと、鼻の中の空気によって直接冷却する、空冷のような2つのシステムで冷やしているのです。

鼻づまりによって口呼吸になってしまうと、効率的な脳の冷却が難しくなります。脳の温度を測るときに代用される耳の鼓膜の温度を調べると、鼻づまりがあるとき、鼓膜の温度は高くなるといわれています。そのため、鼻づまりは、運動や発熱時などでは、脳の温度を下げることのさまたげとなりえます。

東京オリンピックではマラソンや競歩の開催地が北海道へ変更となりましたが、それでも記録的な猛暑からリタイヤする選手が多くみられました。鍛え抜かれたアスリートですら身体が対応しきれないほどの暑さだったのでしょう。

休息や手当てによって回復が可能な身体と異なり、脳はいったん傷むと回復が不可能です。そのため脳を保護するために優れた温度調整のシステムが備わっているのですね。生命の持つ機能のすごさを改めて感じます。

鼻の穴はどうして2つある?

人の鼻って、どうして左右に分かれているのでしょうか。呼吸をするために鼻があるのであれば、なにも2つに分けなくてもいいように思います。その理由を考えるため、鼻の構造をみてみましょう。

鼻の中には鼻甲介(びこうかい)と呼ばれる突起状のものが3つあり、それぞれ上鼻甲介、中鼻甲介、下鼻甲介と呼ばれています。このような突起が複数存在する理由として、先に述べた鼻の加温・加湿や、抵抗、冷却のために、空気と触れる表面積を大きくするためと考えられています。

今や日本人の約半分にあるとされる花粉症をはじめとしたアレルギー性鼻炎では、アレルギーの原因となる物質(花粉など)に対し過剰に反応することで、下鼻甲介から鼻水が多量に分泌され、その粘膜が腫れると鼻づまりを起こします。

下鼻甲介の粘膜は普段、左右のどちらかが腫れる―しぼむを、交互に繰り返しています。これを「ネーザルサイクル」と呼びます。

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ネーザルサイクルを直訳すると「鼻の周期」という意味ですが、左右の鼻が周期を持つ理由として、粘膜が腫れている側の呼吸を休止させることにより、鼻の換気機能を修復しているといわれています。ほかにも、休止中に免疫物質を運搬し、免疫機能を強化しているのだろうとも考えられています。

ネーザルサイクルの周期は人によって異なりますが、昼間は2~3時間ごとに左右交代しているものの、夜間寝ているときはもっとゆったりと遅いサイクルになり、寝返りやレム睡眠に移行したときに左右が入れ替わりやすいようです。

昼間は活動しているので、左右の入れ替わるサイクルが短いのかもしれません。夜寝ているときに鼻の機能をじっくり集中的に修復しているのでしょう。まるで高速道路の夜間集中工事みたいですね。

高島 雅之 たかしま耳鼻咽喉科院長

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たかしま まさゆき / Masayuki Takashima

1994年金沢医科大学医学部卒、1998年同大学大学院修了。同大講師を経て、2007年幸仁会耳鼻咽喉科たかしまクリニック開院(2015年、たかしま耳鼻咽喉科に名称変更)。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本睡眠学会専門医、日本禁煙学会認定指導医。健康を維持するためには質の良い「眠り」が必要との信念のもと、睡眠時無呼吸や睡眠負債など「睡眠医療」に力を入れている。同院併設の「宇都宮スリープセンター」は、日本睡眠学会認定施設(睡眠障害の医療A認定)で、約700人がCPAP(鼻マスク)治療を受けている。診察の傍ら「鼻と睡眠」や「睡眠改善」について講演やセミナーを積極的に行う。テレビ番組の医療監修のほか、メディアへの出演多数。

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