耳鼻科専門医が教える「なぜ鼻の穴は2つあるか」 加温と加湿、除湿機能を兼ね備えたすごい器官

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例えば、22.5度の空気は、鼻の奥で33.4度にまで温められています。また、極寒の地域ではもっと機能を発揮させ、マイナス24度と非常に冷たい空気も、鼻の奥では24度近くまで上昇させることができるのです。とってもすごい役割を果たしているんですね。

加温と同時に加湿も必要です。鼻は吸った空気の湿度を、相対的に80パーセント前後にまで上昇させています。以前、北海道の内陸地に仕事で1年ほど住んでいたことがあります。真冬にマイナス20度を下回る日が何日かありました。濡れタオルを外で振り回すと、あっという間にカチカチに凍ってまっすぐに立ってしまうほどです。

もし、鼻がなかったら、息の通り道はすぐに凍ってしまい、人は極寒の地で生存することができなかったでしょう。極寒の環境で、鼻は空気を温めてくれるのです。

鼻のすごさは、空気を吸ったときだけではありません。吐いた息に対しては、3~4度温度を下げ、湿度も下げる働きを持っています。これにより結露を生じさせ、鼻水をたらします。その3割は鼻の粘膜に再び吸収されて、次の息を吸うとき、乾燥した空気の加湿に再利用されているのです。鼻は、なんてマルチな働きをしてくれているのでしょう。

つまり鼻は、エアコンに高性能な加温と加湿、さらに除湿の機能も兼ね備わっていて、なおかつ自動運転で完全お任せ状態。しかもわざと結露を生じさせて、それを再利用までしてくれる、なんともサステナブルな機能を有しているんですね。

もし、鼻づまりによって口呼吸になってしまうと、この加温と加湿が十分にされないまま空気は気管を通って肺に到達します。鼻呼吸に比べて温度は約2度低く、水蒸気圧も2mmHg(ミリ水銀)ほど低いのだそうです。

冷たく乾いた空気が肺に向かって吸い込まれると、肺がカサカサに近づいてしまい、伸縮性が悪くなって、呼吸による換気が不十分になってしまう恐れがあるかもしれない、ともいわれています。鼻は息の通り道全体のラジエーターのような働きも担っているのです。

鼻のおかげ!? 脳の温度調節

「デスクトップのパソコンって、大きさのわりに中身はスカスカなんですよ!」と、あるシステムエンジニアの方からお聞きしたことがあります。その理由は、機械からの熱がこもらないよう発散させるためなんだそうです。

脳は、人間の機能をつかさどるとても重要な臓器です。脳の温度は40.5度を超えると機能障害を起こしてしまいます。

たとえば、病気などで高熱でうなされているとき、もしも脳まで身体と同じ温度に上がってしまったら大変です。そのため、人だけでなく、哺乳類は体温調節とは別に、脳を保護するための独立した温度を調節するシステムを有しています。

脳は1分間に800mL近い血液が流れる血流量の多い臓器です。激しい運動をしたり、インフルエンザなどで高熱が出たりすると、脳の温度も当然上昇してしまうはずですよね。では、どのようにして脳の温度を下げるのでしょうか。

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