日本は「自分たちが飢える」可能性に備えているか 有事に起こりうる最悪事態を元農水官僚が警告

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現在の農地と食料自給に必要な農地との差は600万ヘクタールを超える。九州と四国を合わせた面積に相当する農地を作り出すには限界がある。仮に農地など農業資源を確保しても、平時のような生産は期待できない。

さらに国土自体が戦場となる場合には、国内生産はいっそう深刻なダメージを受ける。これに対処するためには、平時における米の生産・輸出を、ここまで述べた以上に大幅に増やしておくしかない。

危機時に混乱が生じないように

また、コストの高い国産の小麦や大豆を生産するのではなく、小麦、大豆、トウモロコシ等を大量に輸入して備蓄しておく必要がある。とりわけタンパク質の供給源として大豆の備蓄は必須である。危機が去るまで、それをとり崩して生き延びるしかない。攻撃されても持ちこたえられるような保管施設も用意する必要がある。

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これまで農政は食料安全保障という概念を農業保護の方便として利用してきただけで、食料有事に備えた現実的・具体的な対策はほとんど検討していない。危機時に混乱が生じないように、マニュアルを詳細に決定し、それを国民に周知徹底する必要がある。

農林水産省やJA農協に農政を任せてしまった結果、日本の食料安全保障は危機的な状況になっている。台湾有事になると日本は食料から崩壊する。攻撃する側からすれば、シーレーンを破壊すれば、日本の戦闘能力を奪うことができてしまう。国民は食料政策を自らの手に取り戻すべきだ。

すぐにでも行うべきことがある。戦前陸軍省が農林省の減反政策案を潰したように、主食の米を減産する減反は安全保障と相いれない。これまで減反で多くの水田を潰した。食料安全保障のためにも、米の減反をただちに廃止すべきである。

山下 一仁 キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹

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やました・かずひと / Kazuhito Yamashita

キヤノングローバル戦略研究所 研究主幹。1955年生まれ。77年東京大学卒業後、農林省(当時)に入省。2009年キヤノングローバル研究所客員研究員。10年から現職。農学博士。『日本の農業を破壊したのは誰か』(講談社)、『農協の大罪』(宝島社新書)、『環境と貿易』(日本評論社)、『国民のための「食と農」の授業』など著書多数。

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