日本は「自分たちが飢える」可能性に備えているか 有事に起こりうる最悪事態を元農水官僚が警告
シーレーンが破壊されると石油も輸入できない。石油がなければ、肥料、農薬も供給できず、農業機械も動かせないので、単位面積当たりの収穫量(単収)は大幅に低下する。
戦前は、化学肥料はある程度普及していたが、農薬や農業機械はなかった。シーレーンが破壊されると、終戦直後の農業の状態に戻ると考えてよい。しかし、このときは、農地解放によって自作農を作った。18世紀イギリスの農学者アーサー・ヤングの「所有の魔術は砂を化して黄金となす」という言葉があるように、これで農民の生産意欲は大幅に向上した。
また、石炭と鉄を基本とした傾斜生産方式によって化学肥料を増産した。農地解放と傾斜生産方式という、食料増産のための効果的な方法を考案するだけの能力を持った人材が、官界、学界に、存在した。
それでも、人口は7200万人、農地は600万ヘクタールあっても、飢餓が生じた。仮に、このときと同じ生産方法を用いた場合、人口が1億2550万人に増加しているので、当時の600万ヘクタールに相当する農地面積は、1050万ヘクタールとなる。それでも十分とはいえない。しかし、農地は宅地への転用や減反などで435万ヘクタールしかない。
危機時には石油、肥料、農薬、機械も輸入できない
農林水産省は、今の農地にイモを植えれば必要なカロリーは賄えると言うが、それは石油も肥料、農薬、機械も、現在のように使えるという前提に立った試算である。危機時には、これらやその原料は輸入できない。危機というものを想像していない試算である。
危機が長引いた場合、現状の農地面積では、現在の米の生産量約700万トンさえ生産・確保できない事態に陥るのである。
そればかりではない。終戦後の食料難時には、戦争は終わっていた。農業生産自体が脅かされることはなかった。しかし、ウクライナのように国土が戦場になるときは、現在の農地さえ生産の用に供しえなくなり、生産が大幅に減少することを覚悟しなければならない。
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