日本は「自分たちが飢える」可能性に備えているか 有事に起こりうる最悪事態を元農水官僚が警告

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危機時の食料増産には、今の農業生産とは別の考慮が必要となる。現在の生産者は、石油なしの農業についての経験も技術もない。現在の形態の農業を保護するだけでは、食料危機時の生産に十分には役に立たないのかもしれない。

備蓄されている石油(2021年3月現在、日本の石油備蓄は民間備蓄を含め247日分)を、経済全体でどのように配分するか優先順位を予め決定しておく必要がある。国民生活上の優先順位をつけたうえで、各産業に割当てなければならない。

輸入途絶時に、国民に食料を供給するために最も必要なのは農地などの農業資源である。現在のような単収が期待できない以上、より多くの農地資源が必要である。終戦時、国民は小学校の運動場をイモ畑にして飢えをしのいだ。上野の不忍池しのばずのいけは水田となった。

しかし、現在の都市の小学校の運動場はアスファルトで覆われ、土壌の生物等もいない死んだ土地となっており、イモも植えられない状態である。他方で、高度成長期以来、日本は森林を切り開いて多くのゴルフ場を建設してきた。食料危機には、これを農地に転換するのである。

危機が起きる前に

農地を確保するため、ゴルフ場、公園や小学校の運動場などを農地に転換しなければならない。どれだけの面積を確保する必要があるのか、大きなコストをかけないために、どこをどれだけ農地に転換していくのか、どのようにして土地の所有者や利用者の承諾を得るのかなど、危機が起きる前に真剣に検討しておくべきである。

また、生産要素として、機械、化学肥料、農薬が使えない以上、労働でこれらを代替しなければならない。田植え機が使用できないので、手植えになる。経験のない人が作物を栽培することは容易ではない。

終戦時には1600万を超える農民がいた。今は249万人しかいないうえ、彼らは農業機械等を使えない農業を経験していない。国民皆農を視野に入れた教育も考えなければならない。このときに与えられた条件の下で単収を最大限にする農業技術を検討するとともに、これを実際に活用できるような教育も考えなければならない。食育については基本法が作られるなど真剣に取り組まれているが、農育については、どうか?

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