対馬の神秘的な3つの聖地を旅して得た圧倒体験 海への信仰と太陽信仰という2つの神話世界

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天童法師の墓といわれている石積みの塔。母が日の光を浴びて妊娠したという「日光感精型」神話が伝わる

海の神のワタツミ、その娘トヨタマビメの神話の舞台とされる対馬。対馬を訪れると、記紀神話だけでなく、もう1つ重要な神話世界があることに気がつく。それは、天道法師をめぐる物語である。天道法師は、天道童子、天童とも記される。「お天道様」といえば太陽のことを意味するように、天道法師信仰も太陽信仰と結びついているようだ。海への信仰と太陽信仰が対馬の二つの神話世界を支えているのだろう。

天武天皇が在位していた頃、対馬の内院に若い娘がいた。この娘が日輪の光を感じ、男の子を産む。その天道という子は大変賢く、成長すると僧となり、不思議な力も身につけた。あるとき、元正天皇が病となった。占いをすると、対馬にきわめて祈る力の強い法師がいるので、祈らせたらよいと出た。さっそく勅使を対馬に送ると、天道法師は対馬から壱岐に飛び、さらに筑前国(福岡県)の宝満山に飛んで、都にやってきた。祈祷により病の癒えた天皇は喜び、望みのままに褒美を与えようとした。

太陽信仰 天道法師をめぐる物語

「この道で本当にいいのだろうか」

不安になりながら「オソロシドコロ」と呼ばれる森の中を進む。小川を越え、俗の世界とは明らかに違う空気に包まれていることを感じたとき、石積みの塔が現れた。母が日の光を感じて妊娠したと伝えられる天道法師の墓と伝えられる場所である。ちょうど朝日が木々の間から石へと射し込み、神話の場面を再現しているようだった。

天道法師の誕生譚は神話学的には「日光感精型」という。典型的な神話は、高句麗の祖である朱蒙である。河の神の娘が日の光を受けて卵を産み、そこから誕生したという。『古事記』にも似た話が伝えられている。天道法師の神話的源泉はどこなのか。今後も対馬の旅を続けながら考えていきたい。

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