ここで「論介(ノンゲ)」という、韓国のジャンヌダルク扱いされているヒロインを紹介しよう。日本では馴染みはないと思うが、韓国ではほぼ誰もが知っている歴史上のヒロインである。
「植民地支配より、豊臣秀吉のほうがひどかった」
「晋州城の戦い」で夫を失った彼女は、民衆を皆殺しにした豊臣秀吉の軍が祝勝会を開いているときに、その武将たちの宴に臨席させられていた。
彼女は妓生(キーセン)=芸妓に扮して、隙をついてひとりの武将に近づくと、その武将を強く抱きしめて道連れにして、19歳にして晋州城の隣の大きな河である南江(ナンガン)に身投げしたのだ。
このいきさつから、「義妓・論介」という尊称で呼ばれることが多い。
この論介の話はその後広く伝えられ、数十年後や100年以上経った後に、祈念堂などがどんどん建てられ、いまでも広く語り継がれる伝説のヒロインだ。
同様に、この壬辰戦争で戦い命を失った人たちが、その後100年以上経った後に「高位に昇進」し、国を護るために命を捧げた「義人(正義の人)」として、崇められている。
ちなみにこの辺りが韓国っぽいというか、儒教っぽいところなのだが、論介が身投げした岩まで「義岩(正義の岩)」と呼ばれ、神聖視されている。
なおこの「義妓・論介」、いまでも晋州の人々から大きな敬意を集めており、ちょうど私が晋州から私の父の墓がある高霊郡に向かうタクシーの中で運転手さんに「はじめて晋州城に行ってきた」旨を話すと、「論介は、本当は妓生ではないのに、夫の仇をとるために妓生に扮してまで……」という話が始まった。
私が「晋州の人は日本をどう思いますか?」と話を向けると、
と、その運転手さんは言葉に力を込めていた。
日韓両国の歴史を学ぶと、この壬辰戦争の爪痕を含め、学べば学ぶほど民族的記憶が再生産されていく。そして儒教文化の韓国ではこうした過去の記憶も脈々と受け継がれていくのだ。
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