日本の対中戦略に軍事の視点が決定的に欠ける訳 経済安全保障には機微技術の優位がカギとなる 

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日本は、これらの分野で優位性を保持すべき技術を個別に特定し、育成すると同時に中国への流出を防がなければならない。中国は海外の技術を硬軟織り交ぜて巧妙に取得しており、大学等における国際共同研究や技術者の誘致など、現在の安全保障貿易管理が十分及ばない分野の技術管理が必要だ。

ロシア軍が日本製の市販カメラや小型エンジン等をOrlan10無人機に軍事転用していたことを踏まえると、安全保障貿易管理の実効性を高めるには、制度のきめ細かな改善に加え、企業や大学等の情報セキュリティー体制の強化と技術保全意識の向上が求められる。技術にアクセスする人や組織の素性を明らかにし、アクセス管理を厳にすることが重要だ。セキュリティークリアランス制度についても具体的な制度設計を早急に行う必要がある。

2点目に、米中が重視する新興技術の大半が民生用にも軍事用にも応用できる両用技術(機微技術)であり、米中競争の本質が軍事力の優位を巡る競争であることを踏まえると、個々の技術が持つ軍事への応用と潜在的価値を評価し、その価値の高い技術を守り、育て、強化することが極めて重要になる。

ウクライナ戦争では、スターリンクやグーグルマップ、スマホ、ドローン等が戦いの帰趨を左右している。これからの戦争は、民生技術・両用技術なしには戦えないといっても過言ではない。

対して日本は、この両用技術の持つ軍事的価値をほとんど考えてこなかった。評価できる専門家も少なく専門組織も無いというのが実態だ。「先端的な重要技術の開発支援に関する制度」において調査研究業務を委託するシンクタンクには、新興技術の軍事的価値を評価できる機能が要る。例えば、極超音速飛翔体がゲームチェンジャー技術として注目されているが、日本は1996年2月に宇宙往還機開発の一環として極超音速滑空飛行実験に成功している。残念ながら、この超先進技術は日本の安全保障には生かされなかった。

戦後の日本には、軍事を忌避する体質が産官学の隅々に染み付いているので、防衛軍事にあまり関心の無い企業が保有する技術の軍事的価値の評価には、自衛隊も関与するさまざまな試験プロジェクトを政府主導で実施する必要がある。

政府一体、官民一体の統合体制が必要

日本の国家安全保障体制は第2次安倍政権の取り組みによって整った。その1つである国家安全保障局に経済班が設置されたのは、2020年4月、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて7都府県に緊急事態宣言が発令された時期に重なる。感染拡大に伴って各国が「自国ファースト」を露骨に押し出すようになったと故・安倍晋三元首相は回想する。

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