日本の対中戦略に軍事の視点が決定的に欠ける訳 経済安全保障には機微技術の優位がカギとなる 

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オバマ政権が2015年2月に発表したNSSでは「安定し平和的で繁栄した中国の台頭を歓迎する」と記述されていたのが、トランプ政権のNSSでは「中国とロシアはアメリカのパワー、影響力及び国益に挑戦し、アメリカの安全と繁栄を侵食しようとしている」との記述に変わった。その意味を今一度認識する必要がある。

一方の中国習近平国家主席も、2020年4月の共産党財経委員会の講話で「グローバルサプライチェーンの中国依存強化を通じた『外国に対する反撃・抑止力の形成』を志向する」と述べ、「相互依存の武器化」を表明している。米中競争時代を迎えた日本は、政府も企業も、相互依存の武器化を前提とする経済安全保障戦略の構築が求められているのだ。

米中競争の核心は軍事技術の優越

米中競争の本質は何かといえば、どちらが相手に自分の意志を強要できるかであり、そのための力(Power)の強さが競われている。

国家のPowerはDIME、すなわち外交(Diplomacy)・情報(Intelligence)・軍事(Military)・経済(Economy)であり、その共通基盤をなすのが技術力である。ウクライナ戦争で明らかになったように、経済制裁は短期的・直接的な効果に乏しく、かつ制裁を加える側にも悪影響が出るため、最終的にこの競争は軍事力の優劣に帰結する。アメリカの死活的国益と中国の核心的利益(例えば台湾の現状維持と変更)が衝突したときには、軍事力で相手をねじ伏せる勝負になる。

中国はこのアメリカ軍との戦いに勝つため、軍民融合戦略によって必要な新興技術の開発と軍事への実用化に国を挙げて取り組んでいる。中国の力、就中、軍事力による現状変更を抑止・阻止することは日本の安全保障の最重要課題であり、日本の経済安全保障を推進するうえで、この本質、すなわち軍事力の優位を巡る競争が経済安全保障の核にあるという認識は欠かせない。

この認識を踏まえ、日本の戦略的自律性と戦略的不可欠性を強化するには、2つの視点が必要だ。まず、米中が決定的に重要と見なす分野で日本が国際競争力を持てる技術を確保するという視点である。中国もアメリカもAI(人工知能)、バイオテクノロジー、量子科学、半導体、材料、製造技術などを重要分野に挙げている。

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