経済班の設置はそのような事態に対応する先見の明であった。科学技術政策、産業政策と国家安全保障政策の連携は、経済班の司令塔機能と経済安全保障推進法によってかなり前進したが、防衛産業と一般企業の垣根の解消や民間両用技術の軍事利用といったコアな部分では、まだ克服されていない。その象徴的な存在が日本学術会議である。
政府の独立機関の1つであり、日本の科学技術研究予算の配分に影響力を持つ日本学術会議は、7月27日の記者会見で「戦争を目的とする科学研究は絶対に行わない」としてきた立場に変更はないと表明している。
中国人が日本で軍民両用技術を学んでいる事実
一方、文部科学省の昨年10月の調査によると、日本の43の大学が、中国人民解放軍が使用する兵器や装備品の開発を担う「国防七校」と提携を結び、留学生に軍民両用技術の研究を認めている。今年2月20日の読売新聞は、「日本から帰国後、中国の大学・研究機関で極超音速関連研究に従事する中国人研究者が多数存在する」と指摘している。
学術会議は、日本の安全保障に寄与する機微技術の研究に研究者が積極的に従事できる環境を整備すべきであり、政府はその研究者と研究成果を守る必要がある。
機微技術の共同研究・開発は、アメリカや同志国との重要な課題である。AUKUS3国(アメリカ・イギリス・オーストラリア)は、国際共同研究における安全保障上のリスクを特定し、軽減する措置をすでに実施している。アメリカ・同志国と同等のリスク管理体制の整備は喫緊の課題である。
セキュリティークリアランス制度を含め、経済安全保障推進法から取り残されている課題にどう取り組むか、そして対中戦略の一環としてどのように実践するか、軍事的視点からの対応が求められている。
(尾上 定正/地経学研究所 シニアフェロー兼国際安全保障秩序グループ・グループ長、元空将)
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