コロナ対応の医療従事者に英国の「冷たい仕打ち」 「コロナ特別病欠規定」の廃止で減給や解雇も

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例えばPPE(個人防具)で長袖ガウンが使用できるのは、コロナICUなど一部に限られている。コロナ病棟などではコロナ感染者との直接的な接触があるにもかかわらず、半袖の制服に手首までの手袋、ノースリーブのビニールエプロン、サージカルマスク、フェイスシールドのみ。これが国が指針とするPPEだ。

汚染された服も自宅で洗濯

ナマ腕をさらし、コロナ入院患者に至近距離から咳をかけられることなど日常茶飯事。さらにコロナ病棟やPCR検査室でウイルスに汚染された制服は、自宅に持ち帰って、洗濯しなければならない。

汚染された服を自宅で洗濯することを推奨する先進国がほかにあるだろうか? まして「コロナと共に生きる」政策で、イギリス国内ではほとんどの感染対策は撤廃されている。これで感染しないほうが不思議なくらいだ。

実際、7月には医療従事者のコロナ感染による病欠が2021年前半の倍近くとなり、過去最悪に達した。通常業務に支障が出ていることがニュースになっているが、現場のスタッフは誰も驚かない。こんな環境で勤務するコロナ医療従事者に、この病欠規定を適用することが適切なのか、大いに疑問が残る。

実際、こうした劣悪なコロナ病棟で勤務してきた医療従事者のなかには、1年以上もコロナ後遺症から回復できていない人もいる。

筆者にはワクチン接種前に感染したコロナ病棟時代の友人看護師がいるが、ひどい肺炎を起こして今でも肺が元の状態に戻っていない。少し動くだけで呼吸が苦しくなるため、定期的に治療を受けているものの、今でも病欠を続けている。

この友人のように、いまだにコロナ後遺症で苦しんでいる医療従事者は少なくないが、一律に経済的な補償は打ち切られてしまうのだ。

税金が原資となるNHS病院は、国の財政状態の影響をもろに受ける。今年5月の日本貿易振興機構の発表によれば、イギリスのインフレ率は9%で、日本の2%はもちろん、G7のなかで最も高い数字となっている。イギリス政府にとっても大きな経済的なプレッシャーがあることは、疑いの余地がない。

だが、「コロナと共に生きる」として、医療現場で体を張ってコロナ感染者に対応する医療従事者が感染しても、「自己責任」として一切の支援をしないことなど、人道的に許されるだろうか?

コロナ感染者の直接対応をする医療従事者には経済支援も補償もなく、感染して病欠になれば、給与カットと懲戒処分が待ち構えている。不十分なPPEと汚染された制服を家に持ち帰って家族に感染させるリスクもある。これでは今後誰もコロナ医療などしなくなるだろう。

イギリスの医療現場では、相変わらず看護師と医師の深刻な不足が叫ばれているが、その原因がどこにあるのかを気づき、一刻も早く対策をとってくれることをただ願う。コロナはもちろんインフルエンザなど、感染症が増える冬まで、そう多くの時間は残されていないのだ。

ピネガー 由紀 イギリス正看護師、フリーランス医療通訳

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Yuki Pineger

日本での看護師免許や勉強経験はなくイギリス義務教育(GCSE)、高等教育A-levelを経てマンチェスター大学看護学部卒業。現在は、イギリス中部に在住してNHSの大学病院に勤務。通常は外科部門に所属して手術前後の患者看護に当たる傍ら、学生指導も担当している(2020年4月から新型コロナ感染病棟に期間未定で異動中)。

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