ウクライナ侵攻が映す「新時代の情報戦」その正体 歴史的視点から「戦争プロパガンダ」を分析

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仮にプロパガンダを政府による軍事目標達成のための手段と捉えた場合、その歴史は古代文明にまでさかのぼる。ただ、マスメディアや撮影技術、航空技術などを駆使し、軍人だけでなく全国民をも対象とした大規模なプロパガンダが展開され、その後のプロパガンダ発展の大きなきっかけになったのは第一次世界大戦だった。

第一次世界大戦で英米が展開したプロパガンダにドイツは圧倒された。戦後ドイツでは自国が大戦で負けた原因は軍事力ではなく英米の巧妙なプロパガンダにあるとする言説が広まり、アドルフ・ヒトラーは英米から学び高度なプロパガンダを国内外で展開した。

第二次世界大戦では各国がラジオや映像など新技術を活用したプロパガンダを大規模に展開した。銃後の市民も常にプロパガンダに晒され、敵国のプロパガンダへの抵抗力を付けるための啓蒙活動も行われていた。

ベトナム戦争ではプロパガンダそのものよりも、報道規制のあり方が注目された。比較的自由な報道が認められるなか、アメリカ人記者らの報道は国内の反戦世論を刺激しアメリカ敗退の一因となった。

湾岸戦争では紛争の様子をCNNが衛星放送で世界に向けて生中継した。しかしベトナム戦争の反省もあり現地からの報道は厳しく制限され、現場の被害の実態は伝えられず米軍側に有利なテレビ映像が流され続けた。米軍がピンポイントで目標を爆撃する様子が繰り返し放送されたことで「テレビゲームのような戦争だった」と語られることもある。

紛争時のテレビの力は、2001年の9・11同時多発テロでも示された。世界貿易センタービルに飛行機が衝突した瞬間は繰り返し報じられ、報復に対する世論が高まり、その後20年続くアメリカ史上最長のアフガニスタン紛争につながった。

ネットやSNSの活用が徐々に拡大

21世紀に入ると、紛争時におけるネットやSNSの活用は徐々に拡大した。イスラム国はSNSで過激な思想を積極的に発信して協力者、支持者を得ることに一定程度成功、100カ国以上から数万人の外国人戦闘員を獲得した。

2010年代に入ると武力衝突に発展することもあった大規模反政府デモ「アラブの春」でSNSが活用され、報道を介さずに海外から衝突の様子を見ることができるようになった。2014年のクリミア侵攻ではロシアによるSNSを通したフェイクニュースの拡散が、2016年にはシリアで続く内戦の様子を7歳の少女がツイッターで発信し国際社会の注目を集めた。

以上、簡単に紛争とメディアの関係史をたどったが、新しいメディアが利用され、紛争地の情報がテレビやSNSからリアルタイムで得られる環境が整備されつつあることがわかる。そして今回のウクライナ紛争が2010年代とも異なるのは、両陣営が活発にSNSを通したプロパガンダを世界規模で展開したことだ。

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