ウクライナ侵攻が映す「新時代の情報戦」その正体 歴史的視点から「戦争プロパガンダ」を分析

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ウクライナ紛争では情報戦やサイバー戦といった言葉が頻繁に用いられている。これらは情報通信技術を用いた敵軍の通信の傍受や妨害、敵国の情報システムの機能停止などを含む新しい戦争の形である。ただ、本稿では歴史的な比較のため、紛争時における第三国の世論に影響を与えるプロパガンダに注目する。

プロパガンダの歴史を見ると、敵国の兵士に抵抗を諦め投降を呼びかけるチラシや、自国の若者に対して軍隊を美化し入隊を呼びかける広告の例が豊富に存在する。ただ、紛争当事国以外の世論にも影響を与えることも、紛争に対する同盟国や中立国の態度や行動に影響を与える重要な活動として認識されてきた。

日本では日露戦争で外務省が欧米の新聞報道を把握し、日本の立場を外国人記者に伝え、ロシア側の主張に対して反論を行う活動を「外国新聞操縦」の名の下に行っていた。1920年代以降ラジオ放送が浸透すると、ラジオの国際放送を通して諸外国の市民に対し自国の正統性を示すケースが増えた。これらは平時から行われる活動であり、現在も形を変えつつ続けられている。

現地情報を英語で大量に、継続的に発信するウクライナ

では、ウクライナではどうなのか。ウクライナにとって第三国の市民の支持は政府の軍事的、経済的支援の継続にかかわる問題だ。

ゼレンスキー大統領は早い段階から積極的に国際社会に呼びかけ、各国の国会だけでなく民間の娯楽イベントであるはずのカンヌ映画祭などでも演説し、西欧諸国の市民と政治家の支持を獲得、多額の軍事支援を得ることに成功している。この様子は大統領や政府関係者のSNS投稿、取材対応などとも相まって注目を集めた。

紛争の長期化や物価高騰、食糧危機に伴い関心が下がる「ウクライナ疲れ」対策としては、現地情報を英語で大量に、継続的に発信する取り組みなどが行われている。

インフラが破壊された土地でネット接続を可能にする「スターリンク」をイーロン・マスクが提供したことは話題になったが、現地の生の情報を欧米諸国に伝えることはロシアのフェイクニュースに対抗し、諸外国の市民の関心を引きつける上でも効果的だと考えられている。SNS上で拡散しやすい形式での情報提供は早い段階から意識されていた。

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