「真夏のいちご狩り」に挑む29歳日光の農家の戦略 冬イチゴとは異なる「夏秋イチゴ」の可能性
それでも孝彦さんは「植物の成長に人間が合わせるしかありませんから。夏場は成長が早くて、こうしない限り手が回りきりません。わが家では当たり前なのです」と話す。
小学校から大学まで打ち込んだアイスホッケーのおかげで鍛え上げられた身体が、ここで役に立つとは想像もしていなかったそう。
天空のいちご狩り園を始めた理由
岡崎ファームは、業務用の卸出荷の他に、2019年からは観光客向けのいちご狩り園も運営している。期間は、8月1日から10月初旬まで。完全予約制だ。
直売を含めたいちご狩りと業務用卸との売上比率は、現在1:9。これを将来的には4:6にまでもっていきたいという。
しかし、なぜいったい、いちご狩りなのか。業務用の卸だけをやるほうが効率がよさそうだが、そこには地域全体を見つめる孝彦さんの思いがあった。
「いちご狩り園を始めたのは、奥日光全体の集客力を高めたかったからです。夏の涼しさ、素晴らしい景観、気軽に大自然と接することができるロケーションと、奥日光は自然には恵まれています。でも、子どもが楽しめる場所がほとんどないのが正直なところで、弱みだと感じていました。せっかく3世代で遊びに来ても、子どもにとってはただの散歩でしかなかったりするわけです」
その土地ならでは食を味わおうにも、ヒメマスくらいしかアピールできるものがなかった。だからこそ、孝彦さんはここに真夏のイチゴを登場させた。
「小さな子がうちのイチゴを、次から次へと食べてくれるのを見た時はうれしかったですね。シーズン中何度も通ってくださるご家族もいらっしゃったり、真夏のイチゴが持つポテンシャルを感じています」
そう顔をほころばせる孝彦さん。父親からは「イチゴを始めてから変わったな。以前はそこまでしなかったよね」と激励されるようになり、実際、孝彦さん自身もイチゴのおかげで家業に身が入ったと実感しているという。孝彦さんは、最後にこう続けた。
「戦後に祖父が開拓し、代々続けてきた戦場ヶ原の農地を守りたい。そのためには、時代に合わせて経営スタイルを変えていくしかありません。農場自体を大きくしていきたいと考えてはいますが、ただ生産量を増やすだけでは事業成長は見込めません。『奥日光では夏においしいイチゴが食べられる』が定着して、『なつおとめ』でこの地域全体が潤うようにしたいですね」
真夏のイチゴ目当てに遊びに来た家族連れが、ついでに奥日光の自然も満喫して帰途につく――。
孝彦さんの頭の中には今、そんな映像がしっかりと浮かび上がっている。
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