「真夏のいちご狩り」に挑む29歳日光の農家の戦略 冬イチゴとは異なる「夏秋イチゴ」の可能性
そうした中、岡崎ファームも選択を迫られた。もともと、高冷地育苗の請負、農地の賃貸のほかに、高原野菜の生産も行ってきたが、ここに夏秋イチゴの”生産販売者“として乗り出したのが孝彦さんだ。
イチゴとの出会いは父のきまぐれから始まったという。
「当園では、育苗請負と土地の賃貸の収入が減少し続けていました。就農人口の減少と高齢化により、コスト高になる高冷地育苗のニーズが減ってきたからです。そのため今後の経営の柱となりそうな何かを早く見つける必要がありました。そんな時、父がたまたま県の産地視察で、興味もなかったのに夏秋イチゴの生産者を訪問したことがあったんです。そこで父がイチゴに関心を示して、私にやってみないかという流れで」
岡崎ファームはこの地域全体で盛んだったイチゴの育苗自体やったことがなく、孝彦さんもイチゴには特に興味を持っていなかった。そこに父に丸投げされるような形でイチゴ栽培に取り組み始めたのが、就農2年目の話である。
主力にしているのは「なつおとめ」という品種だ。
「『なつおとめ』は栃木県が育成した品種で、県が栽培を奨励しています。夏秋イチゴは冬イチゴと比べると酸味が強く感じられるのですが、ここで栽培する『なつおとめ』は、甘みもしっかり乗るため、地元のホテルやレストランの需要を見込めると考えました」
きまぐれから始まった「天空の高原いちご」
そうして手探りで夏秋イチゴに取り組んだ孝彦さん父子の狙いは見事に当たった。岡崎ファームの『なつおとめ』は、業務用の卸を中心に順調に販路を広げていったのだ。
奥日光の有名旅館、中禅寺湖金谷ホテルの料理長などが味に惚れ込み、いまや奥日光・中禅寺湖エリアのホテル8軒にも安定的に納入しているという。
そして、夏秋イチゴは、一気に岡崎ファームの主力商品のひとつに躍進。今年は売り上げ全体の4割にまで拡大する見込みだ。
孝彦さんはすかさず、「天空の高原いちご」の商標を取得。ブランドに対する反応も上々だ。
順調に見える事業展開だが、生産のほうは決してラクではない。
農場が定住人口の極めて少ない地域に存在するため、パートを雇用することが非常に難しい。結果として、夏の超繁忙期であっても家族だけで仕事を回さなければならない。日の出とともに働き始め、終業は夜10時。しかも肉体労働が主なのだ。
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