人口196万の札幌、年約200件ヒグマ出没の危機感 新幹線延伸、冬季五輪誘致に沸く陰で人的被害

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市の担当部署によると、「同じ個体が複数の場所で目撃されているケースがあるので、出没件数と個体数は一致しません。ただ、住宅街への出没が増えていることは確かです。昨年6月のケースは、市外の近隣の町のほうから石狩川を渡って市内に移動して来たと見られています。川や水路が移動経路になっているということですね。

耕作をしなくなった果樹園の木になる果実を狙って出没する個体も確認されています。こうした事例が見られることから、市街地への侵入を防ぐために河川敷の草刈りを行ったり、耕作していない果樹園の木の伐採、電気柵の貸出、購入補助などの対策をしています」

総個体数は維持する基本方針

昨年の東区での人身被害を受け、市は「さっぽろヒグマ基本計画2023」(仮称)の策定に向けて検討委員会で議論を行っている。10月までには原案を報告し、パブリックコメントの募集を経て来年3月には計画を完成し公表する予定だ。その中に、ゾーニング管理による共生を目標とする案がある。ゾーニングを見直していく過程で、市街地侵入を抑制、出没対応の迅速化、市民のヒグマへの意識醸成などを進める。

ヒグマ対策は札幌市だけでなく北海道全体の問題だ。道は「北海道ヒグマ管理計画(第2期)」において、「人とのあつれきの多くは問題個体に起因しているため、問題個体を特定して排除することで、総個体数を維持しつつあつれきの抑制を図ることができる」といった考え方を基本にしている。さらには、最新の生息状況などの科学的データを精査したうえでの、個体数調整の可能性やあり方についての検討にも言及している。

道内では2021年12月末までに人身被害が8件(死者4人 負傷8人)発生した。これはデータが残っている1962年(昭和37年)以降で最多となっている。これだけの被害が出ているだけに「ヒグマとの共生を目指す」というのは、理念としては尊重されるべきだが、実効性のある対策をめぐり市民や道民からはさまざまな受け止め方が出てくるだろう。ニセコなどで続く外資によるリゾート開発の影響も懸念される。

札幌の街並みが大変貌を遂げようとしている一方で、ヒグマの行動領域が住宅街、市街地にまで拡大してきている。このギャップには驚愕するばかりだ。札幌市や北海道がどんな施策を打ち出していくのか、注目したい。

山田 稔 ジャーナリスト

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やまだ みのる / Minoru Yamada

1960年生まれ。長野県出身。立命館大学卒業。日刊ゲンダイ編集部長、広告局次長を経て独立。編集工房レーヴ代表。経済、社会、地方関連記事を執筆。雑誌『ベストカー』に「数字の向こう側」を連載中。『酒と温泉を楽しむ!「B級」山歩き』『分煙社会のススメ。』(日本図書館協会選定図書)『驚きの日本一が「ふるさと」にあった』などの著作がある。編集工房レーヴのブログでは、最新の病状などを掲載中。最新刊は『60歳からの山と温泉』(世界書院)。

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