敗戦した日本軍の描写が今の日本と似る事の意味 歴史に学んで日本的組織の弱さを考え直す

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この風刺。そして、この二つの大事なものを踏まえて、もうフィリピン戦、レイテ戦、何に困ったかというと、山砲であると。私は泣き笑いしながら読みました、素晴らしいです。面白すぎる。

奥泉:馬で引っ張ることが前提になっているのに馬がいない。そんな不条理が軍隊にはたくさんあって、なぜそうなるのかの山本七平の分析が素晴らしい。一口でいうと、形式主義、員数主義ということですね。実情とは関係なく、作文された報告の辻褄さえ整っていればそれでよいとされる。それが積もり積もれば、あきれるほど実体はすかすかになる。何もできない状態になってしまう。この分析は、いまの日本の組織に対してもなおリアリティのある分析になっていて、優れているなとつくづく思いました。

加藤:優れていますね。

やがて教育どころではなくなっていく……

加藤:幹部候補生教育がまだ2年やられていたときと、もう速成の半年間だけという時期とでは違っていて、陸軍は学生を信用しない組織だとか言われていても、抽象的な思考力に長けているという点では学生を採りたかったというのも半分あると思います。超促成教育で飛行機の操縦士にするには、やはり高等教育を受けた人が必要となりましょう。

山本七平の出身校である青山学院も「アーメン」大学とか揶揄的に書かれてしまっておりますが、そこにいた文弱であったはずの人をここまでの将校にできたというのは、逆に言えば、戦争をする国の「教育」はなかなかにすごいぞということも意味しておりまして、そこは少し感心しました。

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奥泉:なるほどそれはそうですね。山本七平は1942(昭和17)年秋の入隊で、豊橋の砲兵学校で教育を受けている。昭和17年段階ではまだそういうシステムが、「組織の自転」といえどもあった。しかし翌年から学徒出陣がはじまって、そこからはもうちゃんとした教育とかいう話じゃなくなっちゃう。

システムは瓦解して、入隊即現地での教育になる。しかもそもそも現地へ行く前に輸送船が沈められてしまう。その世代の人たちがいちばん亡くなっています。その直前に山本七平は予備学生で軍隊へ入ったわけで、彼の観察と洞察が残ったのはよかったと思いますね。ぜひ読まれるべきです。

加藤:あと本文中の地図や写真、イラストも本当に大事です。

第1回:戦争の語りを徹底的に懐疑する小説の持つ価値
第2回:敗戦に向かい合った日本人の精細描写に見える事

奥泉 光 作家、近畿大学文芸学部教授

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おくいずみ ひかる / Hikaru Okuizumi

1956年、山形県生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科修了。『ノヴァーリスの引用』(野間文芸新人賞)、『石の来歴』(芥川賞)、『神器』(野間文芸賞)、『東京自叙伝』(谷崎潤一郎賞)、『雪の階』(毎日出版文化賞、柴田錬三郎賞)、『『吾輩は猫である』殺人事件』、『グランド・ミステリー』、『死神の棋譜』など、著書多数。

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加藤 陽子 東京大学大学院人文社会系研究科教授

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かとう ようこ / Yoko Kato

1960年、埼玉県生まれ。東京大学大学院博士課程修了。専攻は日本近現代史。『徴兵制と近代日本』、『戦争の日本近現代史』、『満州事変から日中戦争へ』、『昭和天皇と戦争の世紀』、『天皇と軍隊の近代史』、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(小林秀雄賞)、『戦争まで』(紀伊國屋じんぶん大賞)など、著書多数。

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