東急田園都市線ホームドア「支障」の意外な共通点 駅員の負担軽減、「センサーの汚れ」対策とは?

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結果を受けて4人が編み出した対策は極めてシンプルで、「無水エタノールを吹き付けた布で、定期的にセンサーを拭き掃除する」ことだ。従来、支障が発生した際の清掃には雑巾を使っていたが、メンテナンスを担う電気部のアドバイスを受け、親水性を回復できる無水エタノールを含ませた布を使うことにした。

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清掃のタイミングは「電車の停車中」だ。田園都市線は4扉車10両編成のため、ホームドアの開口部はホーム1面につき40カ所、上下2面で80カ所。各開口部に1つずつあるセンサーを、ホームドアが開いている20秒程度の間に清掃する。駅業務の合間を縫っての作業になるが、「1日4カ所ずつやれば20日で終わる計算」(長津田駅・西田靖彦助役)だ。通常の運行時間中に行うのは、電車の停車中なら線路に転落する恐れがなく、駅係員に時間外作業の負担を強いることもないためだ。

無水エタノールを使った清掃は11月から試行。一見単純でコストもかからない対策だが効果は大きく、実施前の10月には5駅で計65件起きていた支障が26件に減少し、12月には11件まで減った。「こんなに差が出るとは思わなかった」(プロジェクトメンバーの木内翔太さん)。2021年1月に一旦清掃を中断すると支障件数が再び増え、対策の実効性がはっきりした。

その後も清掃を継続すると、センサーの汚れによる支障はほぼ半減。”対症療法”で発生するたびに拭き掃除していた時に比べ、あらかじめ時間を確保して作業することで、「駅係員の負担はだいぶ減った」と荒川さんはいう。以前は電気部が対応のため年間20回出動していたこともあったが、清掃を始めてからはゼロになった。

設置後の課題にも注目を

現在、清掃の頻度は3カ月に1度で、「春の雨、梅雨、秋の台風など雨が多い時期や、季節が変わる前のタイミング」(木内さん)の2月・5月・8月・11月に実施。そのほかは発生しやすい箇所など、ケースに応じて適宜行っている。西田助役によると、今では長津田駅管内のほか、あざみ野―青葉台間の「あざみ野駅管内」や大井町線にも広がっているという。

ホームドアのセンサー汚れ支障対策を編み出した長津田駅管内の4人。左から西田助役、須崎さん、木内さん、荒川さん(記者撮影)

線路への転落事故を防ぐ「切り札」のホームドアは、多額の設置費用がネックとなっている。国土交通省は整備の加速に向けて2021年12月、ホームドア設置を含む駅のバリアフリー化の費用を運賃に上乗せできる制度を創設した。すでにJR東日本や東京メトロ、東武鉄道などが導入を発表しており、今後は各鉄道で設置のピッチが上がっていきそうだ。

取り付けに伴うコストに注目が集まる一方で、ホームドアは設置後の運用やメンテナンスの費用、トラブルに対応する現場の労力などといった新たな課題も生じる。東急のように先行して整備した鉄道会社のトラブル対処やノウハウは、これから各地でホームドア導入が進む中で重要な知見となるかもしれない。

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小佐野 景寿 東洋経済 記者

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おさの かげとし / Kagetoshi Osano

1978年生まれ。地方紙記者を経て2013年に独立。「小佐野カゲトシ」のペンネームで国内の鉄道計画や海外の鉄道事情をテーマに取材・執筆。2015年11月から東洋経済新報社記者。

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