人身事故が激減、東急の「全駅」ホームドア戦略 あの手この手繰り出して整備計画を前倒し
鉄道業界に逆風が吹いている。新型コロナウイルスの感染拡大に伴って企業の在宅勤務や臨時休校の動きが広がり、通勤・通学の定期客の利用が大幅に減少。イベントの中止や外出自粛でレジャー需要もほとんどなくなっている。
雇用や生活の先行きへの不安など、社会に広がる閉塞感のためか、このところ鉄道の人身事故が増えていると感じる人も多いようだ。
「大手民鉄初! ホームドア・センサー付固定式ホーム柵 設置100%達成」。東急電鉄は3月18日、このように題した報道資料を発表した。3月22日の等々力駅でのホームドア運用開始によって、東横線、田園都市線、大井町線の全64駅で設置が完了したという内容だ。未知のウイルスの襲来さえなければ、記者会見を開いて大々的にアピールをしたかった、というのが同社の本音だろう。
今年は人身事故がゼロ
実際に鉄道の安定輸送にどれほど寄与しているのか。同社によると、駅での人身事故は昨年8月30日に宮崎台駅で起きて以来、ほぼ8カ月間、1件もない。広報担当者は「ホームドアの設置が効果を上げていることは間違いない」と胸を張る。踏切での人身事故は12月14日に東横線の妙蓮寺踏切で起きたのが最後なので、4月下旬時点で今年は東急線での人身事故ゼロということになる。JR各社や関東の大手私鉄では、ほかに例がない。
同社は2000年にはすでに目黒線でホームドアを設置済みだった。また、ホームドアとは異なるが、発車直後に人が近づくと列車を自動的に緊急停車させるセンサー付きのホーム柵を1998年に池上線、2000年に東急多摩川線の全駅で導入。これらはいずれもワンマン運転の電車を走らせている路線だ。
その後10年ほど空いて、2012年に大井町線・大井町駅にホームドアを設置した。ホームドアやセンサー付きホーム柵を設置した駅は2014年度時点で42駅だったが、2016年度以降、毎年十数台ずつ数を増やしてきた。そして今春、全99駅でホームドアまたはセンサー付きホーム柵の設置が完了した。軌道線でホームへの進入速度が遅い世田谷線と、施設・設備が他社の資産であるこどもの国線は対象にしていない。
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