高さ230mの展望台から街を一望できる高層ビル「渋谷スクランブルスクエア」が2019年秋に開業し、今年1月には東京メトロ銀座線の駅が移転するなど「100年に1度」と言われる大規模再開発が進む渋谷。
街の姿が大きく変わりつつある中、その地下に延びる線路を黙々と、いや、より正確に言えばモーターのうなりを高らかに響かせて走り続けてきた電車が、世代交代の時を迎えている。東急電鉄田園都市線の主力として40年以上にわたり活躍してきた「8500系」だ。
形式を知らなくても、角ばった銀色のステンレス車体に「コルゲート」と呼ぶひだ状の模様が目立つ電車といえば、田園都市線の利用者にはきっとおなじみだろう。東急の歴代車両形式で最多の400両が導入され、長らく同線の「顔」だったが、新型車両の投入によって2022年度までに姿を消す予定だ。
やっぱり「音」が好き
低音と高音が入り混じった独特のモーター音を響かせて走り、近年は鉄道ファンから「爆音電車」とも呼ばれる8500系。地下のトンネル内を疾走するときの轟音は、まさに「力走」を感じさせる。
プロから見ても、やはり8500系は「音」が1つの特徴のようだ。東急電鉄で長年車両の整備に携わってきた、車両部車両保全課スーパーバイザーの橋本信彦さんは「電車の躍動感というか『ああこれが電車だな』というイメージがありますね」と語る。
印象だけでなく、プロの耳は車両の細かな挙動を聞き分ける。「電車は1ノッチ(加速の段階)から入って、加速しながら制御が変わるんですよ。そうするとモーターの音も違うし、床下では制御器のカムが回る音がします。だから乗っていて『今2ノッチに入ったな』とか、音でわかります」と橋本さん。故障点検などの際にも音は重要といい、整備の面で「五感を使えた車両かもしれませんね」と振り返る。
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