競馬である。今回は馬券予想ではなく、産業としての競馬界に提言をしたい。
この1週間は日本の競馬界にとって、「1年で最大のイベントウィーク」だった。7月11日、12日の2日間にわたって行われたセレクトセールである。要は、競争馬のセリ市である。
日本最大、いや今や世界最大級のサラブレッドセールで、合計落札額は257億6250万円、1頭平均は5730万円だった。これはもちろん、過去最高記録である。
円安でも高額馬の落札者は日本の馬主が主体
かつては、日本では一流の競走馬はセリ市場には出てこなかった。「庭先取引」と呼ばれ、有力な馬主とその馬主と関係の深い調教師が牧場に来て、好きな馬を持って行ってしまった。完全なインナーサークルの世界だったのである。
そこで、JRA(日本中央競馬会)は公平性、将来への発展性を危惧し、市場取引を推進し、市場取引馬には特別に賞金を10%上乗せする措置が取られていた。
同様に、海外生産の血統馬が有力種馬のほとんどを占めていたため、国内生産馬の種馬の子供は父内国産と呼ばれ、こちらも10%賞金が上乗せされていた。それぞれ「マル市」「マル父」と呼ばれ、レースの出走表には、馬名の前にマル市、マル父の印がつけられていた。それでもマル市の馬は多くなく、私の記憶では有名どころでは、サクラユタカオーぐらいだった気がする。
しかし、それはサンデーサイレンスの大成功で一変する。サンデーサイレンス以外の有力種馬はみんなサンデーの子供たちで、過半数の種馬が内国産馬になってしまったからだ。
同時に、サンデーサイレンスを輸入し所有した社台グループは、日本生産馬を海外に売ることになる将来を見据えて、それまで二流馬が中心だったセリ市を、社台グループの全面バックアップで(というより社台グループのためのセリ市というのが実態だが)、1998年からこのセレクトセールを開始した。もちろん、会場は社台グループのノーザンホークパークである。
サンデーサイレンス、そしてその子供たちを父親に持つ1歳馬と当歳馬(その年に生まれた馬)を求めて、世界から(とくにオイルマネー諸国から)世界の有力馬主(の代理人)が集まるようになった。
サンデーサイレンスからディープインパクトが出たことによって、日本の種牡馬のレベルが世界最高級であることは、世界のコンセンサスとなった。かつては「種牡馬の墓場」とまで揶揄された日本の競走馬生産業界であるが、いまや世界有数のサラブレッド輸出国になろうとしている。
記録的な価格で馬が売れまくったのは、人気ゲームの「ウマ娘」による「藤田晋(サイバーエージェント社長)現象」によるものではなく、円安によってドルベースで見ると円建ての日本の馬が安く見えることが大きい。ただし、高額馬を落札したのは、ほとんどが日本の馬主たちである。これではいけない。
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