安倍元首相が日本を地経学の中に位置づけた意味 QUADやCPTPPの創設により何がどう変わったか

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こうした経緯で生まれ、使われるようになった地経学を定義するとすれば、「国家が、地政学的な目的のために、経済を手段として使うこと」(船橋洋一『地経学とは何か』文春新書、2020年)ということになるだろう。

ここには国家の経済的な活動が地理的条件、すなわち地下資源の有無や良港に恵まれるといった交易条件などに規定された、国家のもつ経済的なパワーを、国家間関係における力学の主要な要件として見る、ということが含まれる。

国家は、地理的に規定された経済的パワーを、その国家が目指す目的――例えば他国の行動を抑止する――を実現するために活用する。地下資源が限られている国家は、自由貿易を確立して他国の資源にアクセスできるようにするという選択もあれば、援助などの経済的なパワーを用いて他国の資源を自国に独占的に使わせるといった選択も取りうる。

地経学における国家は、その経済力を他国に働きかけて自国の望むような行動をとらせるというパワーを行使しうるが、同時に他国からの働きかけを回避し、他国に影響されずに行動できるような自律性を確保するために経済力を使う(ないしは経済力を強化する)。

では、安倍元首相は、どのように「地経学」的なパワーを使ったのだろうか。

2.QUADの創設

あまり多く語られることはないが、安倍元首相はQUADの生みの親である。QUADと呼ばれる、日米豪印の4カ国の協力体制は、2004年のスマトラ島沖地震を受けて、東南アジア諸国における安定と復興を目指し、日米豪印の4カ国が協力して対処したことが背景にある。

この活動は極めて迅速な対応を見せただけでなく、4カ国がそれぞれ共通した復興に向けてのビジョンを持ち、価値観を共有していることが実感できるものであった。このスマトラ島沖地震への対処の経験を踏まえ、2006年に総理に就任した安倍元首相は、価値観を共有する4カ国によって恒常的な枠組みを作り、その枠組みがインド太平洋地域における秩序作りを主導する役割を担うことを提唱した。

安倍元首相が政権に返り咲いた2012年には、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」という構想を提唱し、その中心にQUADを据えるというアイディアを復活させた。

QUADはFOIPを実現するための海洋安全保障の枠組みというだけではない。安倍元首相が首相を辞任した後ではあるが、2021年のQUAD首脳会議においては、サプライチェーンの強靭化や先端技術の開発などに関しても議論し、作業部会を設置することとなった。

この首脳会談では、半導体、電気自動車用電池、医薬品、レアアースなどの分野において、QUADの中でサプライチェーンを強化するための作業部会を設置し、各国の強みと弱みを検討することとなった。

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