「日本の経済安全保障」米国との連携が不可欠な訳 国家資本主義、技術競争と分断、相互依存の武器化

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既存政策の積み重ねだけでは日本の産業競争力を維持できず、安全保障の確保ができない(写真:artswai/PIXTA)
経済的な「デカップリング」が困難である中で、対立する関係にある国家がどのような関係を作っていくのか。地政学だけでは読み解けない時代を「地経学」という観点で読み解きます。

地経学のマクロトレンド

本年5月に成立した経済安全保障推進法は、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進することを目的として

① 重要物資の供給網(サプライチェーン)強化
② 基幹インフラの信頼性確保
③ 重要先端技術の開発推進
④ 非公開特許制度

の4本柱で構成されている。

日本政府はこれまでも安全保障貿易管理制度と、その基盤となる外為法(外国為替及び外国貿易法)の枠組みで、経済安全保障政策を推進してきた。冷戦期のソ連を中心とする共産圏に対する輸出規制を起点として、先進国が保有する高度な貨物や技術が、大量破壊兵器等の開発や製造に関与している懸念国やテロリスト等に渡ることを未然に防ぐための制度設計となっている。

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また貿易立国として石油や天然ガスなどのエネルギー、鉄鋼、石炭、希少金属(レアメタル)等の鉱物資源、各種素材や食料などの安定供給のため、官民協力を推進しながら自由貿易体制と市場アクセスの強化による共有確保、供給元の分散化、自主開発や備蓄体制の強化などを並行的に推進してきた。

しかし現代の地経学マクロトレンドには、こうした既存の政策の積み重ねだけでは日本の産業競争力を維持できず、安全保障の確保ができない構造変化が生じている。その最たる変化は、「国家資本主義」を背景とした中国を中心とする新興国の台頭である。

これら新興国の国営企業ないしは国家の強い影響下にある旗艦企業は、資源・エネルギー関連分野、金融分野、IT・電信分野などで飛躍的な成長を遂げている。多くの新興国は、国家の余剰資本をもとに政府系ファンド(SWF)を創設し、資本市場への介入を躊躇なく展開し、国営企業の海外での戦略的投資を推し進めた。こうした国家資本主義が、主要先進国が推進してきたリベラルな経済秩序と対立を深めることとなった。

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