元自衛官が安倍氏銃撃「プロの犯行」といえるのか 自作銃を使用、防衛省・自衛隊幹部が語ったこと

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そして、最後に護衛艦艦長はこう続けた。

「山上容疑者は任期満了の8カ月前に護衛艦『まつゆき』から第1術科学校に転勤していますよね。私の経験に基づく推測でしかないのですが、おそらく本人が護衛艦を降りることを強く望んでいたのだと思います。

艦艇勤務は出港すれば24時間3交代の日が続き、また曹士の隊員は自衛隊法で艦内居住が義務付けられ、自由な上陸や外出ができないため、艦艇勤務を希望する隊員が少ないという現実があります。だから、艦を降りたいという隊員がいたら艦長はじめ上官は必死に説得するのです。

山上容疑者はそんな状況の中で艦を降りている。その理由はわかりませんが、過酷な護衛艦生活の経験が事件の遠因になっていなければいいと祈っています」

属性によってステレオタイプに論じるのは危険

安倍元首相を白昼、公衆の面前で銃撃するという衝撃的な事件の犯人が元海上自衛官であったということで、武器の取り扱いや襲撃などの作戦行動のプロのように思う人もいるかもしれない。山上容疑者の経歴を詳細に追うと、自衛官としては、“アルバイト隊員”という言葉が示すように、初歩的な教育・訓練しか受けていないことがわかるだろう。

私が本稿で指摘したいことは、人を属性によってステレオタイプに論じるメディアやSNSの風潮とそれを受けて安易に判断を下すことの危険性だ。眼鏡がくもってしまえば、正しい姿は見えてこない。

最後に安倍元首相のご冥福をお祈りするとともに、速やかに動機や背景が解明されることを期待したい。また、元自衛官の犯行で自衛官の士気が下がり、渾然とする国際情勢の中で国防に隙ができてしまうことは、安倍元首相の願うところではないだろう。

高橋 和弥 国際情報アナリスト

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たかはし かずや / Kazuya Takahashi

政府系シンクタンクで北東アジアの安全保障を中心に国際情報を分析する。

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