「安倍晋三元首相の死」で為替は円高方向に向かう 悪い円安という意識はどこからやって来るのか

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とはいうものの、本来、為替には「よい」も「悪い」もない。通貨は強いか弱いか、高いか安いかがあるだけだ。その意味では「悪い円安」などと、価値判断をつけるのはミスリーディングである。よいか悪いかは、それを語る人の視点によって変わるものだからだ。

当欄の2人の仲間のうち、小幡績氏(慶應義塾大学准教授)は異端のように見えて実は正統派の経済学者であるから、「今の円安是正を急ぐべし」という立場である。6月25日分の寄稿「やっぱり円高が今の日本を救うと断言できる理由」 が心に刺さったという読者は少なくないだろう。

他方、経済評論家の山崎元氏は投資家目線に立っているから、「円安悪くないじゃないか」という論旨になる。5月21日の「『貧乏エリート』は円安が大チャンスだと思えない」では「財務省・学者・メディアの歪んだ円高好き」 と痛いところを突いている。いや、それもまことにご指摘のとおりなのである。

日本経済は「輸出が命」

そこで筆者としては、いつもとおり間隙を縫うように、ご両人が言わないようなことを書いてみたいと思うのである。

1970年代からアベノミクスが導入される2013年くらいまで、ごく一部の時期(1998年の金融不安の前後には、さすがに1ドル=150円に近い円安は問題視された)を除いて、この国はずっと円高の心配をしてきた。政府に対して「円高を止めてくれ!」という声はいつもあったけれども、「円安を何とかしてくれ!」という昨今の状況は新しい。この間にいかなる心境の変化があったのか。

意外に思われるかもしれないが、日本経済は今でも「輸出が命」であるし、「円安のほうが円高よりもよい」。少なくとも筆者の見立てはそうだ。それを確認するためには、7月1日に出た6月日銀短観を見てみるとよい。

その日銀短観では、2022年度の想定為替レートが1ドル=118.96円になっている。前回3月調査の111.93円から7円だけ円安方向になったが、実勢レートに比べるとまだ16円くらい円高に見込んでいる。日本の「大企業・製造業」は、なぜこんな見通しをしているのか。

理由は簡単、「想定為替レート」とは文字どおりに「為替を想定」するものではないからだ。テレビ東京系列「モーニングサテライト」では、毎週月曜日に番組コメンテーターがその週のマーケットを予測する「モーサテ・サーベイ」のコーナーがある。筆者も含めて、番組出演者は毎週、株価や為替を本気で当てに行っている。当然ですわな。

ところが日銀短観の場合、これは企業が決算用の数字を仮置きしている数字である。企業としては、秋に中間決算を公表するときに、この差額を使って決算を「上方修正」したい。そうすれば株価にもプラスになるだろう。例えばトヨタ自動車の場合、1円の円安で約500億円の収益増になると言われている。

ただしこんな手口は、いかにも子供だましである。今までずっと円高に脅えてきた輸出企業は、「黒田緩和」が約10年近く続いている間にこんなテクニックを覚えたということであろう。つまり彼らにとって、円安は快適な日々であったのだ。

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