「年収200万円で豊かに暮らす」ではマズい理由 2003年には年収300万が低い年収の象徴だった

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これで豊かに暮らすことはできるのか

手取りで200万円台だった場合、ひと月に使えるお金はどのくらいだろうか。年間のボーナス2カ月分含むと想定して、200万円を単純に14で割れば約14.3万円。200万円台の上限を290万円とすると約20.7万円。手取り月収がこの金額だと、家賃が高い都市圏ではかなりしんどい。

可処分所得が低くなれば、それに応じて安いものを求めるニーズは増えるだろう。例えば、日本の外食は破格に安いチェーンも多い。先の「民間給与実態統計調査」の業種別平均給与を見ると、最も給与水準が低い業種の平均給与は251万円で、「宿泊業・飲食サービス業」だ。2020年の数字のためコロナの影響を受けているのかと思えば、その前の調査でもほぼ同じ数字だった。つまり、安い飲食提供はそこで働く人の安い給料で支えられているともいえる。

安さを追求するとどんなことが起きるか。たまたま読んでいた1850年代英国のルポがびっくりする内容だったので短く紹介する。ヘンリー・メイヒュー著『ヴィクトリア朝ロンドンの下層社会』に出てくる、既製服を仕立てる職人の話だ。

同じ工程の仕事でも年々賃金が下がっていき、10年前の半分になったという。ところが、あまりに賃金が安いので、きちんと製品ができるのか不安になった発注者は、(ちゃんと作りますという)保証金を払わないと職人に仕事を卸さなかったというのだ。

自分たちが払う賃金が安すぎて、納品されるか不安だから保証する金を払えとは、現代ではまるで意味が分からない。しかし、それが払えない職人は仕事がもらえないため、今度はいわゆるブローカー(ピンハネ屋)が間に入り、保証金を払う代わりにそういう職人を100人もかき集めて安く働かせる。そうやって作られた安い既製服が市場に流れていったわけだ。

結局のところ、“いかに安く仕事を請けるか競争”になるからこそ、こういうことが起きたのだろう。製品の安さは、やはり安い賃金を養分として存在するのだ。これではどちらも豊かに暮らすには難しい。

「いいインフレ・悪いインフレ」という言葉を聞くが、安値はどうか。いい安値があるとすれば、例えば、賞味期限間近な食品に特価をつけるとか、大量に現金払いで買い付けることで価格交渉し、そのぶん売価を下げるなどの根拠がしっかりある場合だろう。

しかし、消費者が使えるお金が増えず、価格だけでなく回り回って給料を上げられない現状は悪い安値でしかない。年収200万円でも暮らせる世界では、やっぱりまずいのだ。

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