健康診断でなぜ残る「欧米がとっくにやめた検査」 いまだに「肺結核」を調べる必要はあるのか?

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あるいは、心電図検査については、どうでしょうか。

心電図検査では、心臓の壁が異常に厚くなっていないか、過去に心筋梗塞をやっていないか、不整脈の素因がないか、ということがわかります。心電図検査の話をする際に、患者さんから「不整脈は見つかりましたか?」と聞かれることがありますが、心電図はその瞬間、数秒間の心臓の電気信号を検出するだけなので、残念ながら時々出るような不整脈はほとんど捉えることができません。

1日1回以上出る動悸が不整脈によるものかを調べるには、例えば、24時間装着する「ホルター心電図」が必要になります。あるいは将来的にはスマートウォッチがその役目を十分果たせるようになるかもしれません。また、あくまで電気信号の検査なので、弁膜症など、心臓の形の異常も捉えることはできません。このように、心電図検査もいくつもの限界がある検査なのです。

そして、この心電図検査についても、臨床試験において無症状のリスクの低い健常者に行うことに有用性が確認できず、アメリカや欧州諸国で「推奨できない」とされています(Ann Intern Med 2015)。

このような根拠に基づき、アメリカや英国の健康診断からは外れているのです。

日本の健康診断の未来

私がここで提示したいのは、1972年に行うと決めたことを、時代が変化し、人々がかかる疾患が変化する中で、継続していていいのかという疑問です。

アメリカや英国の健康診断では、科学的根拠に基づいて検査の益と害が天秤にかけられ、前者が後者を上回ると判断できる検査で主に構成されています。特に年齢の若い層では「実際に検査で見つけられることは極めて限られている」ということを意識した構成になっています。

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エビデンスがなくても検査をするだけなら害がないのだからいいではないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、検査をすることで一定の確率で「異常」と判定される方が生まれます。そのような方は病院に行き、追加検査が行われます。検査は場合によって、体に負担がかかるもの、合併症の可能性もあるかもしれません。その分だけ、検査の合併症で苦しむ人が増えるわけです。また、検査にかかる経済的負担、検査で「異常」と判定されることにより生じる心理的負担もあります。価値の低い検査なら、受けないほうが良いのです。

一方、日本の健康診断は、歴史的な背景が色濃く残っており、必ずしも最新の科学的知見を根拠にしているわけではありません。また、個々人の持病や年齢によって内容が大きく変わることもありません。

ここで注意が必要なのは、「科学的根拠がない」というのは、「検査をするのはマイナスだ」ということとイコールでもありません。プラスかもしれないし、マイナスかもしれない。今、日本で行われていることは実は正しいかもしれない。でも間違っているかもしれない。それがわからないということです。

歴史や伝統も大切ですが、国民の健康を維持するための健康診断は、あくまでその時代を反映した、国民の健康を守る検査でなければいけません。そして検査をするにあたっては、利益だけでなく、有害性も考えられるべきです。

オンライン化が進み、データの集約が容易になった今だからこそ、日本発の健康診断のエビデンスを構築していくべきだと考えます。そして、他国の知見にも目を向けながら、もう古くなってしまった「歴史」ならやめるという決断、これからの時代に即した新しい健康診断の構築が必要とされていると思います。

山田 悠史 米国老年医学・内科専門医

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やまだ ゆうじ / Yuji Yamada

慶應義塾大学医学部を卒業後、日本全国の総合診療科で勤務。現在は、米国ニューヨークのマウントサイナイ医科大学老年医学科で高齢者診療に従事する。フジテレビ『FNN Live News α』のコメンテーター、 WEBマガジン『ミモレ』やニュースメディア『NewsPicks』の連載の他、コロナワクチンの正しい知識の普及を行う一般社団法人コロワくんサポーターズの代表理事、カンボジアではNPO法人APSARAの常務理事として活動。著書に『最高の老後 「死ぬまで元気」を実現する5つのM』(講談社刊)、『健康の大疑問』(マガジンハウス新書)がある。Twitter:@YujiY0402

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