日本人は「音楽大学」凋落の深刻さをわかってない 弱まる経済を補完する文化基盤の構築をどうする

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日本の衰退につながりかねない問題です(写真:NOBU/PIXTA)
銀行員から音楽大学に転職し、現在は音大生や音楽指導者に対して「キャリア戦略」や「お金との付き合い方」を教えている著者が、日本の音楽教育が置かれている現状を解説。『音大崩壊~音楽教育を救うたった2つのアプローチ~』より、毎年学生数が減り続けている音楽大学を復活する戦略と、日本における芸術教育のあり方を考えていきます。

「音大崩壊」が目前の現実

2年前の2020年7月22日、「いよいよか!」と思わざるをえない衝撃的なニュースが駆け巡りました。音楽大学の名門として知られる上野学園大学が、2021年度から4年制学部の学生募集を停止するという話です。

大学のプレス発表によれば、「少子化や社会情勢の大きな変化の中、さまざまな改善策を試みたが、大学部門の厳しい状況に変わりなく、募集停止に踏み切らざるを得なくなった」とのことです。

音大の新規学生募集停止は、上野学園大学が最後となるのでしょうか? 残念ながら「次はどこが怪しい」との話題は尽きません。そのくらい私立音大は学生募集に苦労しているのです。

音楽大学には歴史ある大学が多く、また高い人気を誇っていた時代が長く続いたため、過去の遺産ともいえる好立地にある土地・校舎・ホールや有名作曲家の原曲楽譜、価値ある古楽器、手元資金など、保有している資産にはまだ余裕があると考えられます。

しかし学生が減って毎年赤字続きでは、真綿で首を絞められるように経営は悪化していきます。今のままでは、いくつもの音大が新規学生募集停止に追い込まれ、「音大崩壊」を招きかねないのが実情です。

すでにその導火線ともいえる事態が、これまで音楽大学に多くの学生を送り込んできた高校の音楽科において生じています。廃科や普通科への併合が続き、ここ10年の間に私の知る限り17もの高校音楽科が姿を消し、80以上あったものが現在は64と、大幅に減少しています。これでは音楽大学の学生募集に根詰まりが生じるのも無理からぬことです。

また、6月22日の記事に書いたように、文部科学省の「学校基本調査」によると、1990年には2万2053人だった音楽大学の学生数は、2020年には1万5592人に減っています。

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