日本人は「音楽大学」凋落の深刻さをわかってない 弱まる経済を補完する文化基盤の構築をどうする

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今年5月、アメリカの電気自動車メーカー、テスラのCEOのイーロン・マスク氏が「(出生率が死亡率を上回るような変化がない限り)日本はいずれ存在しなくなる」とTwitterに投稿して話題となりましたが、この減少率は、それとは比べものにならないほど速いペースです。

しかも「音大崩壊」の及ぼす影響は、単に音楽教育界を揺るがすのみならず、少し大袈裟に聞こえるかもしれませんが、実は日本の存亡がかかっているといえるほど大きな問題なのだと私は考えています。

これまで、日本が地理的にはアジアの小国でありながら、経済大国として豊かな生活を享受できてきたのは、経済発展と貿易のおかげです。

具体的には、私たちが暮らすのに必要な電力やガスなどのエネルギーの約80%、毎日食べる食料の約60%(カロリーベース)を輸入に頼り、その支払いに必要な外貨は自動車やその関連部品、機械、鉄鋼などの輸出で賄っています。そのような中、世界の各国が経済力をつけていき、日本が現状に留まれば、当然力関係に変化が生じます。

経済力の相対的低下は国力そのものを危うくする

国に勢いがなくなれば、外国為替取引で円が売られる要因になりますし、輸出入で取引価格を決める際も足元を見られ、不利な条件を飲まざるを得なくなります。最近の円安傾向とは比べものにならないほど大幅な円安に見舞われて、物価が大幅に上がるのみならず、値段を上げても国際競争力の低下でモノが入りにくい事態に陥りかねません。

じつはすでにその兆候は表れています。国際決済銀行(BIS)の発表によれば、「円の実力」ともいえる実質実効為替レート(2010年=100)は、2022年1月、67.55と1972年以来50年ぶりの低水準になりました。

経済力の相対的低下は、日本の国力そのものを危うくします。日本は世界第3位の経済力を誇り、日米同盟を基盤とした防衛力を保持し、世界196か国中約150カ国あるといわれる開発途上国への支援を積極的に行っています。だからこそ、国際的に大きな発言力や影響力を持ち、この国力を維持してきたわけです。

日本の置かれた立ち位置の変化は、GDP(国内総生産)の時系列推移とその予想に如実に表れています。1990年、アメリカは圧倒的1位で、2位に健闘する日本の2倍近い規模を誇っていました。その日本を中国が2010年に追い抜き、今や日本の3倍に迫り、アメリカに追いつく勢いです。このままいくと、2028年前後にアメリカを抜き、50年にはアメリカの1.7倍の規模に達すると予測されています。同時に、インドもアメリカを大幅に上回る姿が示されています。

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