日本人は「音楽大学」凋落の深刻さをわかってない 弱まる経済を補完する文化基盤の構築をどうする

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このような世界情勢において、日本は残念ながらかなり黄昏感が強まりそうです。圧倒的2位から、現在は1、2位に大きく水をあけられた3位ですが、これが5位以下に転落します。GDP全体におけるシェアではさらに低落が鮮明です。

1990年頃は世界の約10%を占め大きな影響力を持っていましたが、今やそれが6%程度、それが50年にはさらに2%くらいまで低下します。人口も減少し、現在の1億2000万が1億を割り込むのはほぼ確実の情勢です。日本は“普通の国”と化し、世界経済への影響力は大幅に低下することは、もはや避けがたい「すでに起こった未来」(P.F.ドラッカー)といえそうです。

少子化と高齢化のダブルパンチで生産年齢人口が大幅に減り、デジタル社会にも乗り遅れたうえ、豊かさでがむしゃらさを失った今の日本に、この未来を大きく変えるだけの経済力の回復力はどう見てもありません。

ですから、日本がこれまでのようにアジア屈指の先進国として踏みとどまるためには、経済で見劣りする部分を、ほかの何かで補わなければなりません。

(出所)『音大崩壊~音楽教育を救うたった2つのアプローチ~』(ヤマハミュージックエンタテイメントホールディングス)

そう考えると、世界で通用する音楽や美術などの文化・芸術やスポーツは、いわば日本が先進国として存続するためのキーファクターであり、音楽大学はその基盤を担うインフラとして機能すべき存在です。その音楽大学の崩壊は、日本が先進国として留まる術を失いかねないことを意味します。

芸術教育がイノベーションを生み出す鍵となる

音楽大学のインフラとしての役割は、高い文化水準を築き上げる、文化国家を担う人材を輩出するなどにとどまりません。じつは音楽をはじめとする芸術には、イノベーションを生み出す活力があることがわかっています。

スペインのデウスト大学とオランダのフローニンゲン大学が2013年に発行した『Tuning Journal for Higher Education』によると、革新性の高い職業に就いた大学卒業生のなかで、「芸術」を選考した学生が多いことがわかります。

革新性の高い職業に就いた大学卒業生の学科別割合を示すグラフを見ると、「生産」「技術」「知識・方法」「全類」の4つのイノベーションのうち、芸術は、生産イノベーションでは情報科学に次ぐ2位。技術、全類では5位といずれも平均を上回るパフォーマンスをあげています。

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