ナイキの「選別」で始まった靴小売りの地殻変動 小売り各社を揺さぶる大手ブランドの直販強化
実際、大手NBの直販シフトは年々強まっている。6月27日にナイキが発表した2022年5月期決算では、売上高のうち直営店や自社EC(ネット通販)で販売された「直販比率」は42.1%。2013年の18.9%と比べ、この10年で2倍以上に高まっている。
競合のアディダスも2021年12月期の直販比率は38%に達し、2025年に向けて50%前後に高める方針を掲げる。フットロッカーのニュースは、スニーカー市場で圧倒的な人気を誇る大手NBの“小売店離れ”の影響を顕在化させたものと言えるだろう。
大手ブランドが直販に注力する理由は大きく2つある。
自社ECやSNSの普及によってメーカーが直接的なプロモーションをできるようになり、これまで主要な顧客接点の場だった小売店の重要性は相対的に弱まった。コロナ禍を経て、ECで買い物をする習慣が一気に浸透したこともブランドにとっては追い風となっている。
もう1つは、ブランドイメージの問題だ。多数のブランドを取り扱う小売店では、より安価なブランドの靴と横並びで陳列され、セールシーズンごとに大々的な値引きが行われることも珍しくない。直営店のほうがブランドの世界観を伝える商品の陳列を行えるほか、値付けの面でもコントロールを利かせやすい。
ブランド側で小売店を「区分け」
「アメリカでは、フットロッカーの顧客層や(扱う商品の)価格帯はかなり広い。ナイキは、フットロッカーに卸すことによるブランドイメージの低下も懸念したのだろう」。三井物産戦略研究所で流通・物流産業のグローバル市場調査や研究を行う高島勝秀氏は、そう指摘する。
小売店の集客力に頼らずとも、直販で顧客に訴求できるだけの知名度を持つ大手NBは、「どの小売店にどの商品を卸すか」を選別し始めているというわけだ。
こうした傾向は日本も同様だ。例えば、アディダスのスニーカー。複数の小売り関係者によれば、その代表とも言える「スタンスミス」や「スーパースター」を卸す店、価格帯がやや低い「アディダス ネオ」を卸す店、といった区分けがアディダス側でなされているようだ。
品ぞろえの豊富さで戦ってきた靴小売り大手は、そのあおりをもろに受けている。チヨダの広報担当者は「現在はナイキ商品の取り扱いがほとんどない状況」と話す。「アスビー」などを展開する業界3位のジーフットも、ブランド愛用者が求めるような希少品番などの仕入れは乏しく、「大手メーカーから入荷する商品は(比較的安価な)流通用に企画されたものが多い」(経営企画本部)という。
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