経済格差を報じるメディアが、職を得ることで数多くの低所得世帯の生活水準が高まっていることを、なぜしっかり報じないか、筆者は疑問である。
アベノミクスで経済格差はむしろ縮小している
経済格差が問題だと考えるなら(本当に問題なのかどうかはここでは置いておく)、アベノミクス後に職に就くことができるようになった人々に注目すべきだろう。そうした報道があまりないのは、安倍政権を批判するための一つの材料として、「経済格差」というフレーズを利用しているだけに過ぎないということではないのか。
「賃金が上昇しないので生活が苦しい」という解説に共感する正社員は依然多数だろう。ただ、労働市場の需給状況をよりストレートに反映する、アルバイトなど非正規労働者の賃金は過去2年で着実に上昇している。限界的な賃金上昇も低所得世帯の所得を底上げしており、100万人規模の雇用創出とともに、経済格差を縮小させている。
実際に、アルバイト従業員を酷使していたとの批判がある外食産業においては、多くの企業がビジネスモデルの転換を迫られている。労働市場の需給改善が続くことで、やむを得ず低賃金の職についていた多くの労働者は、今後、賃金水準が高い正規職員につく機会が増えるようになるだろう。
アベノミクスが完遂することで、今後数年内にインフレ時代が到来するだろう。その過程で、ようやく増え始める兆しがみえている賃金水準が高い正社員数がはっきりと増えて、そしてようやく正社員の賃金も目に見えて上昇することになるだろう。
「既存サラリーマンの賃金が上昇しない」というのは、脱デフレの過程がまだ途上にあるということだ。インフレ到来と同時に起きる労働市場の需給改善で、「売り手市場」が長期化し、低所得世帯がさらに底上げされ、経済格差は一段と縮小する。
むしろ「経済格差」を問題にするのであれば昨年4月の消費増税を問題視すべきだろう。大型増税という失敗で2014年度にGDP成長率がマイナスに失速した。しかも、消費税自体は逆進性が極めて大きいため、消費増税で低所得の消費を冷え込ませ、せっかく縮小していた経済格差は再び拡大した。
にもかかわらず、霞が関が主導していたフシが強い2015年10月の消費再増税を、一方で経済格差を重視する論調であったメディアが、むしろ後押ししていたのは、筆者には不思議でならない。実際にピケティ氏は、「格差を拡大させる消費増税は間違った政策だった」と述べている。
なお、ピケティ氏による米国など先進国の所得格差の広がりをデータで広範囲に示した業績は称賛に価するし、米国などにおける富裕層への課税強化という政策提言には理解できる部分が大きい。ただ、これらが、そのまま当てはまる部分が日本にあるかといえば、かなり限定的だと筆者は考えている。
また、経済格差の行き過ぎを是正させるために、経済成長やインフレが大事である点にピケティ氏が言及した模様だが、米国のような極端な富裕層が広範囲には存在していない日本にとっては、これがより重要な論点だ。これらの点については、別の機会があれば改めてお伝えしたい。
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