高速鉄道商戦・地方鉄道まで徹底リポート
だが、同時に行政の側もローカル線の維持に向け、ようやく重い腰を上げ始めた。その一つが、自治体が土地や施設などの資産を保有し、鉄道会社は運行のみを行う上下分離方式の導入だ。鉄道事業法や軌道法に基づく明確な形での上下分離以外にも、インフラは分離しないがインフラ経費を限度に欠損を補助する、実質的な上下分離方式が増えている。
特急停車、新駅設置…客を増やす方法はある
さらに踏み込んで、鉄道利用者を増やすための動きも出始めている。
シジミ漁で有名な宍道湖を抱える島根県松江市は、昨年10月、朝の通勤通学にJRを利用してもらおうという取り組みを1カ月にわたって行った。朝7時から8時半までの間、宍道から松江方面に向かう列車は特急列車も含め5本あるが、特急や快速が止まらない駅もある。それらの駅に臨時停車させると同時に、自由席特急料金を無料にしたところ、朝の時間帯のJR利用者が各駅で3~4割増えた。「自動車通勤する市民に、鉄道の利便性をぜひ体感してほしかった」(松江市交通政策課)。
松江市以外では、06年から富山県富山市が、JR高山本線のラッシュ時増発、最終便延長、停車駅増設などの施策を行っている(今年3月に終了予定)。その結果、朝の利用者が2割、帰宅時の利用者が6割、新駅の利用者は2倍に増えた。工夫次第でローカル線の利用者を伸ばす余地はある。「情緒的に鉄道を残そうと主張するのではなく、経済的な観点でも存続の道はある」と、鉄道評論家の佐藤信之氏は言う。たとえば地域の知名度を高める広告手段として鉄道を活用する方法はある。
冒頭で国内に成長機会は乏しいと書いた。だが老朽化した車両や設備が今も使われている現状は放置されていいはずがない。この先、海外を主戦場として戦うにも、足元をまず固めておく必要がある。そこで得た再生のノウハウが必ず役立つはずだ。
『週刊東洋経済』2011年3月5日特大号(2011年2月28日発売)の「特集・鉄道最前線」では、鉄道関連メーカーの実力から世界の高速鉄道商戦、都市・地方鉄道の抱える課題まで、最前線を追った。
(週刊東洋経済編集部 撮影:ヒラオカスタジオ)
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