アメリカ株の反転上昇がそう簡単ではないワケ 日本株も年内3万円回復は難しくなってきた

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5月雇用統計の平均時給は前年比プラス5.2%と極端な伸び率にある。細かくみれば前月比の伸び率が減速傾向にあるなど瞬間風速は弱まっているが、依然としてFRB(アメリカ連邦準備制度理事会)が許容できるレベルではない。通常は好ましい現象である賃金の上昇も、ここまで極端になってしまうと高インフレの「原因」になってしまい、経済にさまざまな歪みをもたらす。特に影響が懸念されるのは低所得層だ。

たとえば食費を例にとると、食料品価格が著しく上昇した場合に、中・高所得層は外食を控えたり、ふだん買っている食料品を安価なモノに切り替えたりすることで生活防衛が可能であるのに対して、元から最も安価なレベルの食料品を購入している低所得層はそうした選択肢を多く持たないため、生活コスト上昇を受け入れざるを得ず、結果として生活が苦しくなってしまう。賃金が上がっていたとしても、ベースの賃金が低い場合、物価上昇を全て吸収できるとは限らない。

賃金インフレが沈静化に向かうか否かは、労働参加率にかかっていると思われる。労働参加率とは16歳以上の人口に占める働く意思のある人(就業者と求職者)の割合であるから、その低下は労働力の減少を意味する。需要が不変なら供給側要因でインフレが起きる。では直近の労働参加率はというと、5月に62.34%まで戻したが、依然としてパンデミック発生後に生じた「断層」は埋まっていない。

今後は「労働参加率が戻るか」に注目

そこで労働参加率を年代別にみると、25~54歳がパンデミック前の水準に接近するまで回復しているのに対して、55歳以上の戻りが鈍いという特徴が浮かび上がる。55歳以上の労働参加率が低いのは、いわゆるアーリー・リタイアによる労働市場からの退出が主因である。つまり労働者不足の主因、換言すればインフレの根源はこれら年代の早期退職であると考えることができる。

今後、インフレに伴う生活コスト上昇、株価下落によって労働市場への再参入を検討する人々が増加し、55歳以上の労働参加率が回復すれば、賃金と物価の相互刺激的な上昇は一服し、全体としてインフレが落ち着く可能性は高いと判断される。今後、金融市場では労働参加率に対する注目が高まっていくだろう。

労働参加率の上昇は、インフレの先行指標になり得る。同時にこのことはFRBの金融政策にも一定の影響を与えるだろう。もしFRBがインフレの最悪期脱出を認識して、金融引き締めの手を緩めるとしたら、8月のジャクソンホール講演がポイントになりそうだ。

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