インフレ加速なら老後資金は5000万円必要になる 物価上昇時代に不可欠な投資への「マネーシフト」

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「老後5000万円」の目標を達成するには、高利回りの運用収益の確保が必要となる。インフレ局面では確かにプラスリターンを得やすくなるだろうが、インフレ超過リターンとして見たときには、アベノミクスのようなデフレ時代と同等に収益を確保し続けられるとは思わないほうがいい。

だとすればもう1つ重要な対策は積立額の増額だ。毎月2万円の積み立てをして将来に備えている人は、物価が10%上がれば毎月2.2万円を積み立てるのだ。

ところが、物価上昇時の積立増額は簡単ではない。何せ物価上昇によって毎月の生活コストがアップし、家計の出費は増えているからだ。油断していると積立増額どころか、積立減額ないし積み立て停止ということもある。まずは日々の家計をしっかり管理し、iDeCoやつみたてNISAへの拠出を維持するよう努めたい。

そのうえで増額を検討していく。最初のタイミングは来年春の賃上げだ。インフレに応じた賃上げが実現したら、拠出額もすかさず増額しよう。

物価上昇に追随して積立額を自動で増やしてくれる金融商品というのはなかなかない。積立増額のためには手続きが必要だ。積立定期預金、積立投資信託、財形貯蓄、社内持ち株会、iDeCo、つみたてNISA、企業型DCのマッチング拠出など、いずれも増額は自分で手続きする必要がある。この「一手間」が将来の資産形成の成否を大きく分けることになる。

経済の成長率はインフレ率を上回る

投資スタイルについては、インフレ時代もiDeCoやつみたてNISAを通じた長期・積み立て・分散投資の戦略が有効だ。経済の成長率はインフレ率を上回ると考えられる(短期的にはともかく、インフレ率を下回る経済成長率が長期的に続くことは考えにくい)。

また、株価が激しく騰落を繰り返すような不安定な時期ほど、自動的な積立投資の継続が結果として奏功する。相場をウォッチして買い時売り時を見極めるのは難しいためだ。定期的な積み立てで分散投資を継続し、長期的な経済成長によるリターンを確実に得よう。

日本では金融ビッグバン以降、個人の資産運用が広まったが、インフレを意識した資産運用という考え方はなかったといっていい。10%増やせば10%の資産増と考えればよかった時代はシンプルでわかりやすかった。だが、そういう時代は終わった。これからはインフレと付き合いながら運用する時代なのである。

山崎 俊輔 フィナンシャル・ウィズダム 代表 ファイナンシャルプランナー

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やまさき・しゅんすけ / Syunsuke Yamasaki

1972年生まれ。中央大学法学部卒業。企業年金研究所やFP総研を経て2001年独立。全国紙などで連載。著書に『普通の会社員でもできる日本版FIRE超入門』など。

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