「魚が寿司になるまで」を真剣に解く職人の正体 「命を食べている事をたまに思い出して欲しい」

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まずは腕試しをしようと勤めていた寿司店の休日を使って週末起業することに。

「友達を集め、いつもはピザやコーラでパーティーしてるところを、寿司パーティーに変えてもらいました。ピザパーティーでも一人当たり、2000~3000円かかりますから、その値段で寿司を握れば喜んでもらえました」

当時は週末起業の寿司職人などほかにはいなかった。珍しがられ、オファーがあれば、どんな場にも握りに行った。利益追求もしない。1日働いて1万円でもお小遣いになればと営業していた。すると銀座なら1万円以上かかるような豪華な寿司を、3000円ほどで出すことができた。そうして岡田さんの寿司は評判になった。

「来てくれたお客さんが寿司を食べながら、もう次の予約をしてくれるんです。自分でも驚くほど口コミで広がって、それが独立するきっかけになりました」

自室のマンションの1室で独立

週末起業で自信を得た岡田さんは、八丁堀の自宅マンションで完全紹介制の寿司屋を開業した。25歳での独立は、寿司職人としては異例の早さだという。開店資金がほぼ必要なかったことも、気軽な独立につながった。

「キッチンとダイニングテーブルがある一室で始めました。奥の扉を開ければ、ぼくのベッドとデスクがありました。当時は、そんな寿司屋らしくないしつらえの部屋で、本格的な寿司が出てくるのも、おもしろがってもらえた理由かもしれないですね」

店があった八丁堀は、築地駅の隣り駅。毎日歩いて築地に行き、魚を見放題。築地市場は、岡田さんにとって最高の学びの場だった。

(撮影:今井康一)

そんな中、市場で岡田さんが唯一、気になったのが、産地がわからない魚が多かったことだ。忙しい市場では、売り手が魚の産地をすべて把握しきれているわけではなかった。

どこ産の魚か、お客さんに自信を持って出したい。現場で、自分の目で確認するしかないと産地に魚を直接買い付けに行くようになった。調味料も野菜も米も、そして寿司を提供する食器に至るまで、すべて自分の目で信用したものを扱うようにした。

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