日本に「航空宇宙自衛隊」が本気で必要になる理由 ウクライナ戦争、中国の宇宙進出から読み解く

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――中国は2007年に自国の衛星を物理的に破壊するASAT(衛星攻撃兵器)実験に初めて成功し、3000個を超えるスペースデブリ(宇宙ごみ)を発生させたと問題になりました。中国は宇宙でも「力による現状変更」を行っていく可能性はありませんか。

中国を止めることは難しい。止めろと言っても止めない。これはやはりこちらが先に行くしかない。

実は今回のウクライナ戦争でも、アメリカの通信会社ヴィアサットが管理し、ウクライナ軍が使っていた通信衛星「KA-SAT」が攻撃された。民間システムがサイバー攻撃で相当ダウンさせられた。相手はやる時はやるということだ。

アメリカ国家偵察局(NRO)長官も、衛星が今後攻撃対象になるということが増えると警告している。民間の商業衛星を利用した活動が活発化する中、安全保障上、それへの攻撃が有効だと認識されれば、攻撃されるリスクが増えてくる。

――航空自衛隊の下で、宇宙を専門に扱う自衛隊初の部隊である宇宙作戦隊と、その上部組織である宇宙作戦群が発足しました。宇宙安全保障をめぐって、防衛省・自衛隊にとっての一番の課題は何でしょうか。

やはり日米協力になる。宇宙の安全を確保するためには、最初に宇宙がどういう状況かということ把握しないといけない。そのためにはアメリカとのSSAの連携をきちんととっていかなければならない。

2019年にはアメリカ主導で世界7カ国(アメリカ、英、豪、加、ニュージーランド、独、仏)が宇宙領域把握(SDA)の能力を強化し、データの共有を推進するための多国間共同活動(Combined Space Operations)の協力枠組みを設けたが、日本は残念ながら参加していない。早く参加し、アメリカを中心とした多国間の宇宙協力の構築を急いでやらなくてはいけない。

さらにアメリカとイギリスの間では、宇宙空間での脅威に共同で対処する枠組み「Operation Olympic Defender」があり、今ではカナダとオーストラリアもこのオペレーションに入った。宇宙はどこかの国に主権があるというものではない。多国間協力が前提になる。

――航空自衛隊は将来、宇宙自衛隊や宇宙軍になるのでしょうか。

宇宙領域は現在はだいたい静止軌道までだが、いずれ月、火星とどんどん広がっていく。宇宙領域は無限大に拡大していく。担当する分野はものすごく大きくなる。なので、名は体を表すというが、「航空宇宙軍」に変わったほうがいい。

アメリカは宇宙軍を新たに作ったが、フランスは航空宇宙軍にした。ロシアはその前から航空宇宙軍だ。「宇宙」と言葉を名前に入れてやっていく必要がある。

日本でも国民レベルの議論が必要

以上が片岡氏へのインタビューとなる。

中露は宇宙空間での野心的な挑戦を決して休めることはない。日本の国民生活の安全と安心を守るために、宇宙での抑止をどう実現するのか。国民レベルでの宇宙防衛力の強化をめぐる議論の活発化が早急に望まれる。

高橋 浩祐 米外交・安全保障専門オンライン誌「ディプロマット」東京特派員

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たかはし こうすけ / Kosuke Takahashi

米外交・安全保障専門オンライン誌『ディプロマット』東京特派員。英国の軍事専門誌『ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー』前特派員。1993年3月慶応義塾大学経済学部卒、2003年12月米国コロンビア大学大学院でジャーナリズム、国際関係公共政策の修士号取得。ハフィントンポスト日本版編集長や日経CNBCコメンテーターなどを歴任。朝日新聞社、ブルームバーグ・ニューズ、 ウォール・ストリート・ジャーナル日本版、ロイター通信で記者や編集者を務めた経験を持つ。

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