83歳、余命2カ月だった彼女が最期に味わった奇跡 祖母の家で孫2人が挙げた「家族だけの結婚式」

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それから1週間後の4月1日。街じゅうの桜が咲き乱れる頃、香山さんは静かに息を引き取った。

笑顔で終わる最期は悔いが残りにくい

香山さんの葬儀に参列した前田さんは、娘さんから涙ながらにこう話されたという。

前田和哉(まえだ・かずや)/株式会社ハレ代表取締役。保健師・看護師。2009年、京都大学医学部保健学科看護学専攻卒業。聖隷浜松病院救急科集中治療室を経て、2014年、ケアプロ株式会社にて4年に渡り、訪問看護師、在宅医療事業部長、事業所長を歴任。2018年、多くの救命医療や看取りの現場で得た経験をもとに、患者さんの夢をかなえるプライベート看護サービス「かなえるナース」の事業を開始する(写真:前田さん提供)

「皆さんのおかげで結婚式もお花見も実現できて、どんなに感謝してもしきれません。母は孫たちの結婚式がよほどうれしかったのか、亡くなる直前まで家族皆の写真をずっと眺めていました。私はもう、母に対してやり残したことは一切ありません」

その言葉を聞いて、「驚いた」と前田さん。

「これまで看護師として多くの看取りの現場に携わってきましたが、親を看取った後に『後悔が一つもない。すべてやり切った』と胸を張って言える人に、今まで会ったことがなかったからです。

おそらくお母さまとの最期の日々を笑顔で終わることができたからこそ、悔いが一切ないのかもしれません」

「かなえるナース」のもとには、患者本人のみならず、家族からの依頼も多い。それは、人生の最期に少しでも本人の笑顔を増やしてあげたい、心に刻まれるような最高の思い出をともにつくりたいという思いがあるからだ。

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「終末期にアクションを起こすことは、少なからず寿命を縮めるリスクもあります。そうした中で本人に負担をかけるようなことをするのは、『家族のエゴではないか?』と思う人もいるかもしれません。

でも、香山さんのケースのように、子どもや孫や伴侶からの気持ちが嬉しくて、その思いにこたえたいと渾身の力を振りしぼる人もいる。そんな患者さんたちの姿に、僕は“命の輝き”を見るのです」

最期の日々を安らかに送るのもいいかもしれないが、「悔いなくやり切った」と言えるような、花を咲かせる終わり方もまた見事だ。人生の最期を笑顔で締めくくる終わり方は、本人も残される家族にとっても、悔いが少ないのかもしれない。

伯耆原 良子 ライター、コラムニスト

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ほうきばら りょうこ / Ryoko Hokibara

早稲田大学第一文学部卒業。人材ビジネス業界で企画営業を経験した後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に。就職・キャリア系情報誌の編集記者として雑誌作りに携わり、2001年に独立。企業のトップやビジネスパーソン、芸能人、アスリートなど2000人以上の「仕事観・人生哲学」をインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。両親の介護を終えた2019年より、東京・熱海で二拠点生活を開始。Twitterアカウントは@ryoko_monokaki

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