83歳、余命2カ月だった彼女が最期に味わった奇跡 祖母の家で孫2人が挙げた「家族だけの結婚式」
それから1週間後の4月1日。街じゅうの桜が咲き乱れる頃、香山さんは静かに息を引き取った。
笑顔で終わる最期は悔いが残りにくい
香山さんの葬儀に参列した前田さんは、娘さんから涙ながらにこう話されたという。
「皆さんのおかげで結婚式もお花見も実現できて、どんなに感謝してもしきれません。母は孫たちの結婚式がよほどうれしかったのか、亡くなる直前まで家族皆の写真をずっと眺めていました。私はもう、母に対してやり残したことは一切ありません」
その言葉を聞いて、「驚いた」と前田さん。
「これまで看護師として多くの看取りの現場に携わってきましたが、親を看取った後に『後悔が一つもない。すべてやり切った』と胸を張って言える人に、今まで会ったことがなかったからです。
おそらくお母さまとの最期の日々を笑顔で終わることができたからこそ、悔いが一切ないのかもしれません」
「かなえるナース」のもとには、患者本人のみならず、家族からの依頼も多い。それは、人生の最期に少しでも本人の笑顔を増やしてあげたい、心に刻まれるような最高の思い出をともにつくりたいという思いがあるからだ。
「終末期にアクションを起こすことは、少なからず寿命を縮めるリスクもあります。そうした中で本人に負担をかけるようなことをするのは、『家族のエゴではないか?』と思う人もいるかもしれません。
でも、香山さんのケースのように、子どもや孫や伴侶からの気持ちが嬉しくて、その思いにこたえたいと渾身の力を振りしぼる人もいる。そんな患者さんたちの姿に、僕は“命の輝き”を見るのです」
最期の日々を安らかに送るのもいいかもしれないが、「悔いなくやり切った」と言えるような、花を咲かせる終わり方もまた見事だ。人生の最期を笑顔で締めくくる終わり方は、本人も残される家族にとっても、悔いが少ないのかもしれない。
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