83歳、余命2カ月だった彼女が最期に味わった奇跡 祖母の家で孫2人が挙げた「家族だけの結婚式」
香山さんは、兄弟から発せられる「ありがとう」の言葉や歌声に、目をつむってうなずきながら聴き入っている。弟さんが歌い終わると、誰よりも先に「ブラボー、ブラボー」と、かすれ声になりながら、拍手をし続けた。
結婚式場で行うセレモニーももちろん素晴らしいものだが、思い出のつまった祖父母の家の、食卓で行う結婚式もまた格別なものと言えるかもしれない。
大きな望みを一つ叶えたことで弾みがついた
感動の式を終えて2週間後のこと。香山さんの娘さんから新たな依頼が舞い込んだ。
「父が母と一緒にお花見に行きたいと言うんです。これが最後のお花見になるだろうからって。同行をお願いすることはできますか?」
香山さん一家の中で、大きな望みを一つ叶えられたことで自信や弾みがついて、また新たな願いが湧いたようだった。
だが、式から2週間が経ち、香山さんの体力はさらに落ちてきている。しかも、まだ肌寒さが残る3月半ば。お花見といっても桜はまだつぼみか、三分咲きの状態だった。
身体の状態を考えると、満開になるまで待つというわけにはいかない。前田さんは、なんとしてでも桜が咲いているスポットを見つけようと、スタッフ総出で近隣を必死に探した。
運よく咲いている場所があっても、道路が舗装されていなくて車椅子が入れなかったり、介護タクシーが駐車できるスペースがなかったりと八方ふさがり……。
あきらめかけそうになった時、スタッフの1人が地図アプリで見つけた場所に車を走らせると、奇跡的に美しく咲き誇る桜並木を見つけることができた。道路も綺麗に舗装されていて、車椅子もすんなり入れる安全な場所でもあった。
早速、翌日にお花見を実行。ちょうど娘さんが仕事で留守だったため、奇しくも旦那さんと2人きりのお花見デートになった。
満開の桜に歓声を上げ、顔のあたりまで伸びている枝に手を伸ばす香山さん。30分ほどのお花見デートだったが、ホッとしたのか、香山さんはスヤスヤと旦那さんの横で眠ってしまった。
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