「明日へのマーチ」に映る桑田佳祐の超バランス感 震災復興へシャイで押しつけがましくないスタンス

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一方、3曲目の《ハダカDE音頭~祭りだ‼Naked~》は、《Letʼs try again》の真逆を行くエロ・ナンセンス・ソング。「♪AKBの姐ちゃんとおっぴろげのげ」「♪イカす あの娘(コ)の艶姿 惚れてオイラは竿立てた」と来るのだから、何ともはやである(一応、「♪平和の夢を見て」というフレーズもあるが)。

東日本大震災に対するメッセージとして、桑田佳祐らしからぬ直截的な《Letʼs try again》がまずあって、それに対する真逆としての、徹底したエロ・ナンセンス・ソング――《ハダカDE音頭》を並べることで、全体の印象を中和させようとするあたりに、桑田らしいバランス感覚を感じるのだが。

しかし、多くの桑田佳祐ファンは、《Letʼs try again》より、《ハダカDE音頭》より、やはり《明日へのマーチ》を選ぶだろう。正直、楽曲としての完成度や、歌詞に表れている桑田の真摯な人間性によって、このトリプルA面シングルは「《明日へのマーチ》とそれ以外」という構造になる。

そんな質感の作品であっても、桑田佳祐自身がスマートフォン役を演じるNTTドコモのCMソングに使われるほどポップに仕立てられていることや、曲中に豆腐屋のラッパのような音が入ることにも、桑田流バランス感覚の徹底的なしつこさを確かめるのだが、それでも、この曲の名曲性は揺るぐことはない。

「願うは遠くで 生きる人の幸せ」

《明日へのマーチ》の魅力は、歌詞の中に「がんばろうニッポン」的なメッセージが組み込まれていないことにあると思う。「♪明日(あした)へのフレー‼フレー‼」というフレーズはあるものの、この曲の牧歌的な曲調の中では、決して押し付けがましくは聴こえてこない。

阪神・淡路大震災あたりを起点として、東日本大震災を本格的な契機として、「がんばろうニッポン」的なメッセージを、音楽家が臆面もなく語ることが当たり前になってきた。さらに「私の音楽で、この国を元気にしたい」という、聞きようによっては、何とも傲慢な目線の発言さえ、頻繁に耳にするようになった。

相次ぐ災害(天災だけでなく人災含む)の発生に加えて、こちらはKAN《愛は勝つ》(90年)や大事MANブラザーズバンド《それが大事》(91年)あたりを起点とした「がんばろう系平成Jポップ」のムーブメントも合流した結果だと思う。「がんばろうニッポン」「この国を元気に」的なメッセージが溢れ、逆に、シリアスな空気を茶化すような発言には、即座に「不謹慎ポリス」が発動する。

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