普通はそこで彼に平謝りし、「あなたにも両親にも感染してしまうといけないから、今日は止めにしましょう」と、そのまま彼に帰ってもらうなり何なりするのですが、気持ちが焦っている美月さんは「このチャンスを逃すまい」と、なんとそのまま強行して親御さんに会うことにしてしまったのです。
両親に会うと、彼女はもう結婚が決まったかのように有頂天になってしまい、彼が1人ぽつんと会話に加わっていないことにも思いが至らず、ただの帰省感覚で親と一緒にやいのやいのおしゃべりしてしまったようです。その時、お父さんが春樹さんに「あなたは会計士の資格は取らないの?」と、ポロッと言ったとか⋯⋯。すでに税理士として事務所を構えて成功している人に対して失礼ではないか、と私は思いました。
「娘をもらってくれるなら誰でもいい」
とはいえ、私と美月さんで春樹さんの気持ちを勝手に推測したところで埒(らち)が明きません。まずは、コロナの認識が甘かったことを謝罪。そこから焦らずゆっくり、少しずつ春樹さんの気持ちを聞いていくことにしました。
結局、はっきりとした原因は彼の口からは聞くことはできなかったのですが、「親との関係が⋯⋯」といったことを懸念していたようだったので、もしかしたらお母さんが「うちの娘はもう結婚できないと思った。もらってくれるなら誰でもいい」「結婚してうまくいかなかったら、娘と子どもはこっちで引き取るから、ダメだったらいつでも返してね」などと口走ったことではないかと美月さん。
ずけずけと言うことが美月さん一家にとっては日常茶飯事だったのでその時は気づかなかったのですが、こうした言葉は春樹さんにとっては「立場をないがしろにされた」と受け取るかもしれません。お母さんは背中を押したつもりのようでしたが⋯⋯。
美月さんは、「親よりもこれからつくる家族が大事。親と縁を切ってもいい。これから新しい家族を一緒に作っていきたい」と、春樹さんに伝えました。春樹さんは春樹さんで、相手の親への挨拶は初めての経験。すでに結婚している弟さんが「初めて親に挨拶に行った時はそんなものだよ。ビクビクしなさんな」と、アドバイスしてくれたこともあり、「親を捨てるだなんてとんでもないです。それ程本気で思ってくれているなら、私も、一旦考え直します」と気持ちを取り戻してくれました。
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