コロナ時短命令「違法」判決が示す過料制度の欠陥 グローバルダイニングの請求そのものは棄却

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その一方で、小池都知事が事前に意見聴取した学識経験者らがこぞって命令の必要性を認めていたこと、特措法に基づく時短命令の発出は初めてで、「検討のために参照すべき先例がなかった」ことなどから、「命令を差し控える旨判断することは、期待し得なかった」として、「都知事が本件命令を発出するに当たり過失があるとまではいえず、職務上の注意義務に反したとは認められない」とした。

グローバルダイニング側の憲法違反との訴えにも「命令で営業を規制することは特措法の目的に照らして不合理な手段とはいえない」として憲法には違反しないとしている。

「違法」ではあっても、都知事の「過失責任」は認めない、まるで玉虫色の判決だった。もっとも、内閣官房の事務連絡を精査できていなかったことは「注意義務」を怠ったことにはならないのか。

また、グローバルダイニングが「狙い撃ちした」「報復」「見せしめ」と主張していたことも、「命令を受けたのは原告だけではない」として認めなかった。

だとしたら、全体で命令を出された32店舗のうち26店舗がグローバルダイニングだったことや、緊急事態宣言解除の4日前にあえて発出した理由がわからない。東京都が上場企業であり社会的影響力を主張していることからずれば、普通に考えて「見せしめ」以外のなにものでもない(少なくとも私はそう考える)。

行政が時短命令を出す場合は、その先にあるもっと重い過料も見据えて、運用は慎重にあるべきとする司法判断ともいえる。だが、私の見たところでは、そもそもこのような運用では「見せしめ」にもならないことを裁判所が指摘しているようなものだ。

裁判員制度に通じる過料制度の問題点

公権力が科す過料の問題点については、特措法の改正案が、昨年の通常国会に提出された時にも書いた(『「時短拒否で過料は効果なし」と言える苦い前例』参照)。

そこでも触れたことだが、裁判所も過料の罰則を科す裁量が認められている。2009年から導入された裁判員制度で、一般市民が裁判員の候補者として、指定された期日に正当な理由がなく呼び出しに応じず、無断欠席すれば10万円以下の過料が科せられることが裁判員法で定められている。

だが、制度が開始されて以来、一度も過料が科せられたことはない。それだけ裁判所も運用には慎重であるともいえるが、それ以上に無断欠席の数が多いのだ。

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