コロナ時短命令「違法」判決が示す過料制度の欠陥 グローバルダイニングの請求そのものは棄却

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最高裁判所がサイト上で公開している「統計データ・資料集」に裁判員制度の実施状況に関する統計データがある。これをみると制度開始から最新の裁判員候補者の出席率がわかる。

裁判員制度がはじまった2009年こそ出席率は最高の83.9%だったが、その翌年から下がりはじめ、2017年には63.9%の最低を記録。そこから下げ止まりつつあるが、それでもコロナ禍をのぞけば毎年1万数千人が無断欠席している。今年も3月までの統計で、全国で8376人が呼び出されたもののすでに2830人が無断欠席している。

「もっと出席率が高くて、違反者が少ないときには引き締めの意味もあって、過料も科せるだろうけれど、これだけ欠席が多いと逆に処罰はできなくなる」

裁判員制度にはずっと反対の立場を貫いている弁護士が「裁判所が過料を科すことはない」とする理由にそう語っていた。違反の数が少なければ「見せしめ」の効果もあるだろうが、これだけ多くなるとそれもできない。全員が処罰されなければ、法の下の平等を盾に訴訟を起こされてもおかしくはない。

過料の制度そのものが現実的ではない

グローバルダイニングに時短命令が発出されたときには、東京都下で2000あまりの店舗が夜間営業を続けていた。そのすべてに命令が出せなかったように、多すぎるとその運用が困難になる。逆に特定の店舗だけ処分すると公正性を欠く。

裁判所もその事情は理解しているはずだ。「違法」と判断する一方で「過失責任」を問わなかったのは、小池知事をなだめたようなものだ。

ちょっと意地悪な見方をすれば、新型コロナウイルの感染拡大が都内でもはじまった2020年3月に、小池知事はなんの法的根拠もないのに「ロックダウンなど、強力な措置をとらざるを得ない状況が出てくる」などと発言して物議を醸した。4日も経てば緊急事態宣言も解除されているというのにあえて時短命令を発出したのも、与えられた強権を一度は使ってみたかったからではないのか。

いずれにせよ、今回の司法判断で行政による時短命令、さらにはその先にある過料は扱いづらくなった。むしろ、過料の制度そのものが現実的ではないことを、同じ境遇の司法が行政に教えたようなものだ。

青沼 陽一郎 作家・ジャーナリスト

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あおぬま よういちろう / Yoichiro Aonuma

1968年長野県生まれ。早稲田大学卒業。テレビ報道、番組制作の現場にかかわったのち、独立。犯罪事件、社会事象などをテーマにルポルタージュ作品を発表。著書に、『オウム裁判傍笑記』『池袋通り魔との往復書簡』『中国食品工場の秘密』『帰還せず――残留日本兵六〇年目の証言』(いずれも小学館文庫)、『食料植民地ニッポン』(小学館)、『フクシマ カタストロフ――原発汚染と除染の真実』(文藝春秋)などがある。

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