私学無償化も影響?「100人超え部活」に感じる不安 秀岳館高校サッカー部は1年生だけで部員120人

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高校スポーツが盛んになるのはいいことだし、Aさんが話したように生徒にとって選択肢が増えるのは喜ばしいことだ。だが、預かる部員が200人にも及べば、外部コーチも増やさなくてはならず、その量はもちろん、質が担保されているのかという問題も生まれる。少なくとも、今回問題となった秀岳館においては、暴力やパワーハラスメントに頼らない指導、部員たちの豊かな人間形成がなされていたのかは疑問が残る。

九州のジュニアユース(中学生年代)クラブの指導者のなかには、今年の新入生120人を集めた段原前監督のことを「教育者ではなくビジネスマン」と表現する人もいる。全国大会に出場した高校の監督に「一度練習に来ないか」と誘われると、中学生は舞い上がってしまうことも多いという。寮は朝昼晩と3度の食事がつくため、月に数万の寮費がかかっても「授業料無料だから」と親としても遠方でも比較的行かせやすい。

「公立でも私立でも親の懐は痛まないため、早い時期に進学先が確定できる私立の推薦を選ばせる親も多い気がします。でも、中学校教員の中には、最後の公立一般入試までぜひ粘って勉強してほしいという思いがある人もいます。高校受験は“団体戦”とも言われますが、生徒たちが互いに励まし合って受験に向かうことで力がついたりもするからです。それが今は、私立推薦、公立推薦など入学までの選択肢が増え、そのぶん最後まで戦う生徒が減っています」(Aさん)

首都圏も同様、私立高校が優位

私立高校優位の状況は、首都圏も同じだ。都内の公立中学校教員を務め、サッカーのナショナルトレーニングセンター制度(トレセン)指導員でもあるBさんは「親御さんも生徒も、私立へのハードルが下がってきたと思う」と話す。

「以前は経済的に苦しいから、滑り止めの私立にならないよう都立受験を頑張るという構図でした。ところが今は、私立高校の説明会に行くと、費用のことは心配しなくてもいいですよと言われてしまう。私立のほうが大学受験に対しても面倒見もいい。塾に行かなくて済むとも考えるようです。無論、しっかり運営されている私立も多数ありますが、首をかしげてしまう学校もある。玉石混淆なのが実態でしょう」

東京都の2021年度の制度・データを調べると、都内全日制私立高校平均授業料は46万8412円。先述の就学支援金39万6000円では数万円足りないが、場合によっては授業料以外の奨学給付金で補填可能だ。生活保護世帯には5万2600円、世帯年収270万円未満の世帯には9万8500円(23歳未満の扶養されている兄弟がいる場合は13万8000円)が支給される。

Bさんは「都立高校の低偏差値校の定員割れも影響しているのではないか」と言う。生徒が学期ごとに辞めていくような学校もあるため、そういった環境よりも私立の全日制や通信制を選ぶ。通信制にフォーカスすると、文部科学省の調査で「高校進学者の15人にひとり」が通信制高校に通っているというデータもある。1991年には私立18校、公立68校しかなかった全国の通信制高校の数は、2020年には私立179校、公立78校にまで増加している。

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