私学無償化も影響?「100人超え部活」に感じる不安 秀岳館高校サッカー部は1年生だけで部員120人

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このように教育の多様化が進むなか、ことスポーツにおいては時代が止まったままだ。部員数が3桁にもなるマンモス部活からレギュラーを勝ち取って全国大会で活躍する「鉄板ストーリー」が報道され、それがまた支持される。

「トレセンで指導していると、上手な子どもたちほど私立の強豪校を選びます。高校サッカーの全国大会に魅力を感じている子は多いですね。都大会で上位に勝ち上がればテレビ放映もありますから。ただ、100人、200人という大所帯で埋もれて終わる子も多い」

そう話すBさんは、進路選びの際に「あそこは部員が200人いるよ。それでも行くの?」と念を押す。それでも「行きます」という子もいれば、「う~ん」と考えこむ子もいる。試合に出ないと楽しくないぞ、ほかの学校も見てみようよと、視野を広げるようアドバイスするそうだ。しかしながら、中学生がプレーするジュニアユースクラブは多いものの、高校生対象のユースクラブは少ない。都内であっても、基本的に高校サッカーが受け皿になる。

「サッカーの中堅校で楽しくサッカーして、勉強もします、という15歳が増えてくれるといいのですが……。成績のいい子で都立高校でサッカーもできるところを探して、上手に進路選択できる子もいます。ただ、非常に稀ですね」

私立高校無償化や部活動の成果に導かれ入学するも…

折しも、スポーツクラスを設けていた私立高校が、給与未払い問題をめぐって教員からストライキを起こされるなどの騒動に発展している。学校側からすれば、強豪の部活動をいくつも抱え、そこを目指す多数の生徒が集まれば、生徒の定員確保はしやすいだろう。それは少子化の中、学校経営を安定させるひとつの有効な手法かもしれない。秀岳館高校の周囲にも、野球部、水泳部など、部活動の成果を知らせる巨大看板が誇らしげに掲げられていた。

部活動の躍進によって全国的に有名になり、それが広告塔となり、学校全体の人気が増して、偏差値が上がっていった学校もいくつもある。

しかし、私立高校無償化や輝かしい部活動の成果に導かれていった学校で、思いがけない状況に直面した子どももいるのではないか。今回の秀岳館の件は、コーチや監督の個人の問題ということでなく、そうした背景や構造のもとに生み出されたものではないかと筆者には感じられてならない。

大会で活躍する上澄みの生徒だけでなく、すべての子どもの成長と幸せを考える。そんな学校経営が未来ある子どもたちにとって必要だろう。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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