そのバイデン氏は、核大国であるロシアが本気で隣国への侵攻を始めた場合に、止める手段がないことを良く知っていた。普通の合衆国大統領なら、正面から警告を発するところであろう。ところがバイデン流儀は、相手に先に局面を作らせて、自分は「後の先を取る」ことを好む。今となっては、プーチン氏はその罠に嵌ったのではないだろうか。
経済制裁は世界的な規模になっているから、ロシアはむこう1年くらい頑張り通すかもしれないが、いずれ確実に弱体化するだろう。プーチン氏の失態は、もう一人の敵である習近平国家主席の中国共産党内の立場も弱めることになる。この間に「ガス欠」になる欧州経済は、アメリカに対してLNG(液化天然ガス)輸出を求めてくる。いやもう、「結構毛だらけ」の展開ではないか。
バイデン大統領の「たったひとつの誤算」とは?
そのバイデン氏が、おそらくひとつだけ読みを間違えていたことがある。それはあのウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が大化けして、「ウィンストン・チャーチル(第2次世界大戦時の英国首相)になったこと」だ。
The Economist誌4月2日のインタビューの中で、2月24日の開戦直後、ゼレンスキー氏は「米軍が逃げ道を提示してくれた」ことを明かしている。たぶん国外に脱出して、安全なところへ逃がしてやるというアメリカからの申し出があったのだろう。だが、ゼレンスキー氏は断った。そして国内で指揮を執り続けた。後は皆さんがご存じの通りである。
アメリカのインテリジェンス機関がどう判断していたかは知らないが、元コメディアンが国外に逃亡し、キーウ(キエフ)がすぐに陥落していた場合にアメリカはどう対応したのだろう。
たぶんそちらのほうが、メインシナリオであったはずだ。ウクライナに傀儡政権が誕生するとか、東部や南部がロシア領に編入されるといった事態は、想定の範囲内であったように思われる。バイデン氏は、「それならそれで構わない」と冷たく割り切っていたのではないだろうか。
ウクライナ戦争のおかげで、西側の指導者は軒並み支持率が上昇している。フランスのエマニュエル・マクロン氏は大統領として再選されたし、一時は「死に体」だった英国のボリス・ジョンソン首相も持ち直している。われらが岸田文雄首相も内閣支持率は堅調だ。
ところがただ一人、バイデン氏本人の支持率は上がらない。国のためにうまく働いているとは思うのだが、こういう老獪な手口は少なくとも当世風ではあるまい。まあ、仕方のないところだろうか(本編はここで終了です。次ページは競馬好きの筆者が週末のレースを予想するコーナーです。
あらかじめご了承ください)。
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