映画『her/世界でひとつの彼女』の中では“いかにも”なウエアラブル端末は登場しないが、身近なデバイスがユーザのおかれた状況を理解して対話するというのは、ウエアラブル端末の未来を読み解くにあたって、示唆に富む将来像だ。ウエアラブル端末はもっともユーザの身近にあり、ユーザの状況や行動を理解するためのセンサーの塊とみることができる。そして、単なるセンサーデバイスの域を越えて、ネットワークを介してクラウド上の知性と組み合わされることで、これまでにないサービスを提供することになる。
今のところ、ウエアラブル端末はそこまで高度な機能を提供する段階には行き着いていない。しかし、ウエアラブル端末を支える技術進化を見れば、単なるデバイスの域を越えた進化を始めていることがわかるだろう。
たとえば、音声認識。ウエアラブル端末の典型例となったGoogle Glassは、「Ok, Glass」とデバイスに呼びかけることで操作を行う。Apple Watchでも音声エージェント「Siri」が、スマートウォッチを通じて利用可能になる予定だ。また、画像認識の技術も進化を続けており、ウエアラブル端末のカメラを通じてユーザが見ているものを識別したり、ユーザのジェスチャーを理解してアクションを起こしたりすることが可能になりつつある。
これらはデバイス単体で独立して稼働するものではなく、ネットワークを介して提供される。今は続々と登場するウエアラブル端末の新しい形状に注目が集まっている段階だが、ウエアラブルコンピューティングの将来を展望するためには、端末の形状の変化だけではなく、ウエアラブル端末を支える技術進化を把握するとともに、端末・ネットワーク・クラウドを含む大きな視野を持つことが必要だ。
ウエアラブルコンピューティング、普及への道のりは
ウエアラブルコンピューティングへの期待は高まりつつあるが、普及に向けては乗り越えるべき課題もある。端末が登場して間もないこともあり、性能面・機能面(たとえばバッテリーの持ち時間など)は成長途上だ。また、まだ普及率が低いことから価格がこなれていないことも、生活者にとっては利用に踏み出す障壁のひとつだ。
ただ、技術面やコスト面の課題は時間の推移とともに改善に向かう方向が比較的見えやすい。より難しい課題は、今までにまったくない形状の端末に生活者が慣れるまでに時間がかかること、新たな形状・機能が生み出す問題に関する利用上のルール・社会規範の形成に時間がかかることである。たとえば、Google Glassは登場初期に「運転中にかけてよいのか」「勝手にカメラで撮影されてしまうのではないか」といった議論を巻き起こした。
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