渋澤 国債の利回りがいくら下がったとしても、国民の生活実感として、それがメリットに思えることは何もないといって良いでしょう。まあ、国債の利回りが現行水準で続けば、国は借金の利息返済にゆとりが出るので、恐らく当面は、社会保障なども滞らずに済むはずです。
ただ、金利が反転上昇した時に何が起こるのかというと、逆に国債の利払い費が急増します。今の超低金利水準でも、平成27年度の予算の利払い費が10兆円以上です。ということは、金利が反転した状態を考えれば、政府債務の元本の返済がないまの利払い費だけでも年間予算が20兆円、30兆円の時代は想定外ではないですよね。つまり、今は未来への爆弾を抱えたまま、なす術もなく日が過ぎています。
物価高なのに金利は低下、「インフレ税」を払う現実
中野 消費者物価指数の上昇率を見ると、今のところ年2%台。恐らく「真水部分」でも1%近くはあると思うのですが、一方で長期金利が0.2%割れの水準に留まっていたとしたら、得られる利息は極めて少なく、それを超える物価上昇によって富が奪われることになります。
インフレによって物価上昇が続くと、日常生活に必要なモノなどの値段も上がっていくため、表向き、生活は苦しくなりますが、かつては基本的には物価上昇と並行して金利水準も上がったため、預貯金におカネを預けてさえおけば、利息収入も増えて、ある程度は物価上昇分を相殺できました。
ところが、今私たちが直面しているのは、物価が上昇しているにもかかわらず、金利はむしろ低下しているという状況です。つまり貨幣価値がどんどん下がっているのです。このように、インフレの進行によって貨幣の価値が下落する一方で、金利を意図的に低く抑える政策、つまり実質的に民間から政府への所得移転が起ることを「インフレ税」と言います。
昨年4月に消費税率が引き上げられ、かつ今年1月からは相続税の増税が行われましたが、これに加えてインフレ税も密かに進行しているというのが、長期金利低下のもうひとつのポイントといえるでしょう。
藤野 日本が独裁国家であれば、財政赤字を解消するにあたって、強制的に資産課税を強化することも可能です。しかし、日本はあくまでも民主国家ですから、そのような税制を採ることはできません。でも、インフレ税ならわざわざ国民に対して増税のアナウンスメントをする必要もないので、国民が気づきにくい状況のもとで、こっそり増税したのと同じ効果を得ることができます。
中野 言い方はきついかも知れませんが、これって国家による「コソドロ」みたいなものですよ。
渋澤 まあ、本気でインフレ税を狙っているのか、結果的にインフレ税の状況を生み出してしまったのか、それは定かではありませんが、いずれにしても、物価水準が上昇する一方で、このような超低金利が続くようだと、日本国内における格差の問題は、今まで以上に広がっていく恐れがあります。持てる者と持たざる者、そして、動く者と動かない者との格差が深刻になるでしょうね。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら