会話がしらける?「話し好き」が陥る残念な悪習慣 寡黙は地味じゃない、聞き上手こそ話し上手

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大げさな言い方になりますが、お互いに会社の看板を背負ってクライアントと打ち合わせをするときとは少し異なり、バーでは、「1人の生身の人間として、目の前にいるお客さんにどう向き合うか」が試されている。そんな感覚がありました。

最初のうちは「面白いことを言わなければ」という気持ちもあったものの、何時間も、誰に対しても面白い話を提供できるほどの話術もスタミナも、私にはありません。そこで自然と「基本的には、お客さんから話を引き出し、聞く」という営業スタイルに落ち着いていきましたが、「失敗したな」と思ったことも何度かあります。

お客さんが一生懸命話しているときに、つい口を挟みたくなって、話の腰を折ってしまい、お客さんががっかりしたような、不満そうな表情になったこともありました。お客さんが好きな映画の話をしているときに、ついその映画に対して批判めいたことを言ってしまい、明らかに空気が悪くなってしまったこともあります。

また、自分自身はあまり話さず、カウンターの中でお客さん同士の会話を見聞きしていて学ぶこともたくさんありました。

客同士の会話を見聞きして学んだこと

話したいという衝動を抑えきれなくて、あるいは「自分は賢く、いろいろなことを知っている」とアピールしたくて、相手が一生懸命話しているときに、会話を先回りしたり、自分の知識を披露したり、自分の話に持っていってしまったりする人。

正直すぎて、あるいは「毒舌で鋭いことを言う自分」になりたくて、相手が楽しい話をしているときに、水を差すようなことを言ってしまう人。「何かうまいこと言わなきゃ」「面白いことを話さなきゃ」と焦って、かえって頓珍漢なことを言ってしまう人。

逆に、人の話を静かに聞いて、好感を持たれる人。

こうした経験から、私は「相手に気持ちよく話してもらうため、とにかく、人が話しているときに、余計な口を挟まないこと」を以前よりも心がけるようになりました。

同時に、余計なことを言ってしまうときは、「自分をアピールしたい」「自分を高く評価してほしい」という気持ちが根底にあることが多く、それはたいてい逆効果になる(何も言わないほうが、むしろ相手からの評価は高くなる)ということも学んでいきました。

そして、ゲイバーで学んださまざまなことは、その後の会社での仕事やライターとしての仕事でも、かなり役に立ちました。

このように、「自分の話を聞いてほしい」「自分のことを知ってほしい」という気持ちを脇に置き、「しゃべりすぎないことを自分に課す」ことは、沈黙の価値を知り、聞き上手になり、話しやすい人になるうえで、非常にいい訓練になります。

ただ、それを実践するのはなかなか難しいものです。

すでにお伝えしたように、相手の話の途中で口を挟んだり、余計なことを言ってしまったりする原因としては、主に、

①単に辛抱が足りない(「せっかちで、人が話し終えるのを待てない」「思ったことをそのまま口にしてしまう」など)
②自分をアピールしたい(「優秀な人間だと思われたい」「ユニークな人間だと思われたい」など)
③焦り(「うまく話さなきゃ」「面白いことを言わなきゃ」など)

の3つが挙げられます。

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